Talent No.9

AKIRA_ITO
Audio Craftsman

  • #死を隣に置いて仕事をする
  • November 5th, 2021
Profile

伊藤明(いとうあきら)1982年生まれ。「音とともに、音を育てる」Luv works sound代表。渓流釣り、ストリートダンス、オーディオクラフトをこよなく愛し、稼いだお金は好きなものと好きなことに全て注ぎ込む生き方を実践。オリジナルスピーカーの制作や店舗の音響などを手がけ、札幌の音を人知れず向上させている立役者。近年フォトグラファーとしても活動中。

オーディオ屋になったきっかけ

元々ストリートダンスをやっていて。この環境納得いかねーなってところから、結局自分で音響もイベントオーガナイザーもDJもやっていって、気づいたら独立するということになった感じです。

僕のところは主にマッキントッシュのアンプを使っています。60年前とか70年前とかのアンプを普通に使うんです。ただ聴いてもらったらわかるんですが、本当にちょうど良いんですよ。産業歴史100年っていう考え方があります。100年くらい、まあ少なくても50年くらいはちゃんと遡って、50年前のものと最新のものを同時に使えるようになっていなきゃ、今正しいものとは言えないよねっていう考えでやっています。

両方の良さがありますもんね。世界で一番読まれている本と言われる聖書がこれだけ広まってた理由に、時代性を取り入れる要素があるみたいで。例えばイスラム教は「これじゃなきゃダメ」というクラシカルな思想が強いけど、キリスト教は「ああ、それ良いね」と割とポップに取り入れるらしくて。割と時代時代の最先端を取り入れるからこれだけ世界に広まったと言われていますね。

4回死にかけた

僕は北海道生まれ北海道育ちです。20歳くらいの時に3~4年神奈川に出ました。25歳まではなんでも好きにやれっていう親だったので。「とりあえず道外出ろ、お前頭もないんだし」って言われました。一番良い時に出ていますね。高校出たての頃に、北海道と全然違う空気吸えて。後半戦はパチスロとかやってましたけど(笑)。例えば10万円入った財布を落としても、「ああ、今日は10万すったんだ」って思って吹っ切れるんですよ(笑)。そういうのを鍛えた青春時代でしたね。

何でも物事は半端にやらないほうですね。とことんやり切るタイプかなと。死なない程度に。死にかけたのは4回ほどあるんですけど。やりすぎで胃をやっちゃったんですよね。体はそんなに強くないのに負荷をかけすぎて。この会社はかれこれ8年くらいなんですけど、4回くらい入院しましたね。胃もひどい状態の時あったし、動脈解離とかもやったし。タバコは吸わないんですけど、寝ないで酒を飲んだりとかよくしていたので。今は奥さんも子供もいるのでだいぶ静かになりましたが。

フルベット

カメラにお金を使おうと決めて、そっちの方にフラストレーションは全部ぶつけています。ギャンブラー体質ですよね。フルベットする感じです。オールインというか。フルベットするタイミングを狙うやつです。最初何回か見て、「よし!」とか言って2、3回目にバーンってベットしてくるやつって怖いじゃないですか。「何こいつ?」みたいな感じで。そういうのは大好きです。

全てにおいてそれですか?

大体そうですね。自分がやるとなったら、「これLuv worksっぽいな」って音聴いた時に思ってもらったりとか、「これ、誰作ったやつ?」って言われるような仕事じゃなかったらうちじゃないし。Luv worksをプロモーター集団にしたいなって思うんですよね。

札幌在住の友人も、札幌でふらっとお店に入って、「なんか良い音しているな」と思ったら大体明さんの仕事だって言っていました。

有難い話です。音の調整って本当に時間かかるんですよ。自分は3回くらいは現場に入るし、下手したら6回くらい現場に入って、気づいたところをちょこちょこ調整していって完全納品という感じです。何回も調整するので。他の音響屋さんはそこまでしないですね。2回くらいじゃないかな。3回でも多いくらい。

本当にすごい「もの」ってギャップがあって当たり前だし、人を振り向かせてなんぼじゃないかと。特にコロナ後はなおさら思いましたね。今までのルーティーンで仕事をやっていっても、今までのようなオーダーを取れるように復旧するまでにはまだ時間かかるだろうなと。

50年もたないものはやりたくない

世の中にはものに対する評価があるじゃないですか。評論家っていう人もいるし。でも全然関係なくて、その時代のフレイバーや流行りも加味して取り上げられているものとか色々見るんですけど、これ10年、20年、30年、もっというと50年もつかな?っていう風に見るんです。50年もたないものは、自分の仕事ではやりたくないです。

身近に良いものがあることに気づいてもらいたい

このスピーカーは「ジョイレッド」っていうんですが、持ってもらったらわかるんですけど軽いんですよ。僕の哲学は、スピーカーは軽くないとだめ。音が暴れるスピーカーじゃないとだめ。暴れないと飛ばないんですよ。無理やり暴れさせると中で音を殺しあうんですけど、僕のスピーカーは音が1種類ちゃんと鳴れば良いという考え方なので。エネルギッシュな音をまずはコントロールするところから始まるという感じです。

僕は普通にホームセンターで買える等級の良いシナ材でスピーカーを作ります。普通は良い木材じゃないと良いスピーカーは作れないって言うじゃないですか。でも僕はその考えすら間違っていると思っているんです。僕が使うのは、コンパネサイズ(90cm×180cm)で大体2000-3000円のシナ材です。

触ってもらって、軽いことを感じてもらって、でも聴いてもらうとすごいダイナミックでエネルギッシュな音が出るということ。それをお客さんに体験してもらうと「これ、何かすごい木を使っているんですか?」って聞かれるんです。「いや、普通にホームセンターに売ってるシナ材ですよ」っていうと「え?」っなるじゃないですか。しめしめですよ。そもそもそんなに悪い木材じゃないんです。

シナ材ってみんな触ったことも使ったこともあると思います。僕は、身近に良いものがあるんだということに気づいてもらいたいんですよ。自分たちが気づいていないだけで、実はすでにあるっていうこと。それに気づいてもらいたいというのがメッセージとしてあるんです。

なるほど。あえてその素材で作っているんですね?

はい。オーディオ業界ではシナ材は「絶対ダメだ」って言われていて評価も低いんです。そこをまずひっくり返すかと思って(笑)。これを作ったのは7~8年前です。色に関しても、僕はあまりポップな色はやらないんだけど、うちの家族が「もっと激しいのいかない?イエローとかミントとか?」って提案してきて。僕はうるさいんじゃないかと思ったんですけど、実際作ってみたら結構良いなと思ってしまって(笑)。

そんな感じでこの小さいスピーカーを店舗音響で入れたり、これからオーディオを始めるぞっていう個人の方も、大体これからスタートしています。寝室に置く人も多いですね。

うちのスピーカーは聴いた人しかわからないんですけど、中々秀逸なんですよ。しかもユニット1個でこれだけ鳴るんだったら、「何個もついているのってどうなんだろう?」って思います。あの定義すら怪しくなるんですよ。スピーカーのユニット数は1個で十分じゃないかって。

一番大事なのはエネルギーです。音楽のエネルギーをちゃんと伝えてくれるスピーカーじゃなかったらダメです。スピーカーはオーディオの中で一番大事で、ここ間違っちゃったら何もできない。本当はもうちょっと小さくしたいんですけどね。これくらいの大きさがあると低音に余裕があるんですよね。クラシックでも聴けるくらい。

だからちょうどいい大きさです。天井に吊るとしても、このくらいの軽さであればボードに打ち付けても全然落ちてこないですしね。天井のボードが抜けるのは怖いじゃないですか。だから2kgもかけたくない。これは1.9kgです

なるほど。そういったコンセプトとかメッセージがあって、こういう商品が生まれているのですね。元々ご実家が機械屋さんなんですよね?

そうですね。家業は旋盤が普通に置いてある工場です。父親が2代目で、先代の爺さんが始めたのですが、この人がとんでもない人で、北海道の融雪槽を一番最初に作った人です。これ言っていいのかわからないですけど、そういうパイオニアの人たちには、各会社の営業マンがくっついてくるんですよ。それでネタをすっぱ抜かれて、他のところでやられちゃって。

その時の爺さんの一言が凄かったですね。「くれてやれ」ですから(笑)。元々「ドカ雪野郎」って名前だったんですよ(笑)。「ひどい名前だなあ」と思いましたね。あと、札幌ビール園の建屋が古い時があって、その配管の設計に関わっていたりとか。そういうのを小さい頃から身近で見てきました。

機械屋教育

うちの教育は機械屋教育でしたね。例えばラジオが壊れたとするじゃないですか。そうしたらテーブルと工具が用意されて、「ここに新聞紙敷いてバラして順番通りに並べなさい」って言われるんですよ。そして、「バラして悪いところ見つけて頑張って直せ」って言われるんです。

「え、でも壊れるでしょ?」というと、「大丈夫だ、もう壊れているから」って言われました(笑)。先代の爺さんとか工場の従業員が面倒見よく教えてくれましたね。小学校くらいかな。小学校の時から機械をばらしたり、釣りが好きだったから、釣りの仕掛けも全部作ったりしていました。

魚が捌けなかったら、うちの子じゃない

父親が釣りが好きで、漁師みたいな人で、魚をめちゃくちゃ釣ってくるんですよ。釣ってきた魚を母親が捌くんですけど、捌き切れなくなったものを僕ら子供たちが捌いていました。うちは中学生になって「魚が捌けなかったら、うちの子じゃない」って言われました。普通にうまいものを食わしてもらっていたから、「なんで寿司屋の寿司はあんまり美味しくないんだろう?」って思っていましたね。まあ、その寿司屋しか知らないですが(笑)。

分解してからスタートするっていうのが根にあるので、ダンスをやっていた時も音楽をやっていた時も同じですね。オーディオをスタートした時もそうでした。高いオーディオってあるじゃないですか。一個60万円の理由ってなんだろう?って思ったらもうバラしていましたね。バラすと危険なのは元に戻るかわからないところ(笑)。

時計だって同じことじゃないですか。時計まで細かいのはやらないけど、レコード針とかはバラすんですよね。針が交換できない昔のやつとか。やらないと気が済まないし、バラすと分かるんですよね。ちゃんと人の手で作られているのものかとか、エンジニアが熱意があってこれを作っているんだとか。全部分かるんですよね。触って何かを感じる「力」はバラシから覚えたかもしれないですね。

ご兄弟はいるんですか?

はい、4人います。妹、僕、兄2人です。全員機械教育を受けているので、機械不得意なやつはいないですね。珍しいですよね、家内工業で兄弟全員が家の仕事を手伝えるって。

すごいですね。アキラさんは今お父さんでもあるわけですが、お子さんにもそういう教育をされているんですか?

僕の子供は上が7歳、下が3歳なんですけど、プラモデルをずっと作っていますね。アホほど作るんですよ。3日に1個くらい。すぐに財布事情っていうものを教えましたね(笑)。

「簡単に作ったものは簡単に作ったものなんだよ。難しいものを作ってきて、見せてくれた方が俺は好きだよ」「難しいものって大変じゃんでも大変なものって、出来上がったものに出るんだよ」と。そんなことを7歳の子に教えたりとか、うちの仕事を少し手伝わせたりとかしています。

あの子たち、初めてのお年玉を全部フルで使いましたね(笑)。3、4ヶ月でフルで使っちゃうところを見ると、「ああ、俺の血だな」って思います(笑)。

「オールインする性格」って、明さん言われてましたもんね!

使うなとは言わないけど、もう少し考えて使いなとは伝えています。できるだけ早いうちに商売に触れさせようと思っています。人の財産を組めるやつはそれだけでも価値あると思っているので。お金もそうだけど、日本ってあんまり本格的な商売の科目ってないじゃないですか、勉強の中でも。もっとあってもいいと思うんですよね。だってお金に強くなきゃいけない国なんだから。僕は早いうちから、これは1万円の仕事なんだぞっていうのを体験させてあげたいし、こうやって稼いでいるんだっていうのを中学生くらいの時に体験させてあげたいですね。

それは明さんのお子さんに限らず?

誰でも同じですね。僕は仲間になったら、全員飯食うのを面倒見たいタイプなので、その面々に同じように伝えますね。自分が使ってみていいものがあれば、自分を慕ってくるやつがいれば、そいつに同じようにやってあげます。お金はかかるけど、なんぼ金かけたかだろ?って思うし。そんな感じでここまできています。

死を隣に置いて仕事をする

苦労したことはありますか?

ありますよ。野良犬からスタートしているから。どっかの会社に入って仕事を覚えたわけでもないので。それでオリジナルブランドやって簡単にうまくいくわけないですよね。お金の苦労は3年、5年、8年でちゃんとあったし、苦労というか修行だと思っているのでね。毎日勉強だし、苦しくて当たり前だろって思っていますね。ただ、体には限界があるんだなというのは倒れた時に勉強しましたね。

過去4回入院されていますもんね。

動脈解離ってあんまり聞かないじゃないですか。あれって痛みが移動するんですよね。寝てて背面痛い、起き上がって腹痛、トイレ行ったら足痛い。すごいズンズンする痛みで寝れないんですよ。2日くらいしてからさすがに救急車呼んだんですけど。癌だな、やっちゃったなって思いました。入院3回目だったので。

入院してた時、苦しい状態から少し抜けたあたりで、静かな病院のベッドの横に死んだ自分をイメージするんですよね。入院も3回目になると明確に死んでいる姿を想像するんですよね。「俺、そんなに長くもたないな、早く死にそうだな」って思いました。極力頑張るけど、ちゃんと死ぬことを前提で、死をちゃんと隣に置いて仕事をしようと。そう思うと物を作れるのもありがたいし、1日1曲聴けたら満足だし、いま食べられているっていうのは普通じゃないよなってすごく思うようになりました。そう思うようになってからだんだんいろんなものに強くなっていきました。肝が座ったのかな、覚悟ができたのかな。音もその時にぐっと強くなったんじゃないかな。

やっぱり出ますか?仕事に?

出ますね。こうやって今撮ってくれている方々も、作品作りをしているわけだし撮っているものって出るじゃないですか。僕は大変な思いしてきた人、センスもそれなりにあってやってきた人って何となくわかります。あ、これ凄い人だなって。僕も欲を言えばそういう人になりたいし、そういう人たちの中で切磋琢磨したり強烈なものを出したいです。

このスピーカー、造りがすごいシンプルじゃないですか。普通キテレツな造りをやるじゃないですか。無指向性だとか筒だとか波動だとか。僕から言うと、シンプルデザインにもっていったら「売れない」からやらないんだってことです。クラシックスタイル、これは絶対に世の中に残るべきだっていうモデルを掲げてやっているオーディオ屋さんは本当に少ないです。

例えばこのALTEC(アルテック)のスピーカー、アイコニックっていう型なんですけど、この型もクラシックスタイルです。残るべきモデル。それにちゃんと落とし込んで尚且つ「こんな音出るんだ!」って思わせたい。ただの変哲もない箱なのに。

「なんでこんな音するんだろう?」ってびっくりさせるのって、ものすごい大事じゃないですか。「なんであんな絵描けるんだろう?なんであんな歌声で歌えるんだろう?」というのと同じで。スピーカーのデザインがシンプルであればあるほど感動は大きいと思います。

その先にある驚きというか、感動というか、それを実現したくて取り組んでいるということですね?

とどのつまり、自分が一番ぶっ飛びたいのは変わらないですね(笑)。

夜中の3時4時、仕事でくたくたになって、アンプは火が入って温まっているわけですよ。1曲くらい聴くかって思って聴いた時にすごい良い音するんですよ。年間に3回くらいすごい瞬間があるんですよ。そういう時に、ああ、やっぱり俺は逃げれないな、と思いますね。楽器作っているんだなって。

うちは女のお客さんが多いんですよ。オーディオって男のイメージあるじゃないですか?でもうちは半々です。女の人は、「ああこれ」って決めたらドーンって大きい額払うんです。すごいと思いますね。女の人が本気で買ってくれるオーディオ屋ってすごいでしょ?(笑)

そうですね。女性に支持されている理由ってどう見てます?

女の人に売る時って音のアプローチの仕方が違うんですよ。低音で考えるとわかりやすいんですが。水というか柔らかいものを振動させる低音と、ゴンと顔にぶつかってくる低音があるんですよ。男の人は大体顔にぶつかる方が好きなんですよ。女の人はお腹を狙って打たないと買わないです。揺らすというか、子宮に効かせるというか。本当にそこを狙って音を作らないと女の人と子供は聴けないんですよ。

へえ。子供も一緒ですか?

耳のリミットが早いんですよね。ここまでしか聴けないっていう音量とか圧とかキツさとかがあって。大人の男の方が聴けるんです。

大体のお客さんは聴いてから買うんです。例えば夫婦で来店するお客さんの場合、音を聴いていない状態では「高いよ」って言っていた奥さんも、音を聴いた後は「あ、これは買って良いわ」ってなりますね。「本当にスピーカーだけでいいの?ちゃんとしたセットで買ってもいいんじゃないの?」って奥さんが言ったり。そういうやり取りを見ていると、「よし!」って思いますね(笑)。「ほらね!聴いてみるもんでしょ!」って(笑)。

夫婦でも来られるんですね。

来ますね。僕は「家族で来られたらどうですか?」って言います。いきなり売らないです。うちに来るってそれなりに理由があって来るって思っているんですね。「ああ、いよいよもってここに来ちゃったんだろうな」って。ちゃんと話聞いて「こういうの好きじゃないですか?」って音楽聴かすと「すごい好きです」ってなったり。僕もデータの蓄積があるので、この人はこれが好き、こういう楽器やっていたらまずこれ聴いてるだろうとか。好きなものを当てていって、小学生・中学生、この頃に聴いていたセンセーショナルな音楽を引き出して、「じゃあこのスピーカーとこのシステムですね」って提案します。

ここにモノがあったら聴かせて、在庫がなければ、「この店に行けばシステム置いてあるので僕の名前出したら聴けます」といって聴きに行ってもらう流れとか。

コンセルジュみたいですね。

訳あってここに来ていると思うから。出来る限り話聞いて、僕がいなくてもうちのスタッフが話を聞いて、音を聴いてもらいます。まずは高くてもベストプランをちゃんと出しておいて、それから、「今はこれでやってみたらどうですか?予算もありますし」と落とし所、クロージングにもっていって。このやり方でやっていて、どっかのメーカーとのタイアップもなくやっているから、やっぱり最初は大変ですよね。

わがままなんですよね。野良犬風情がね、そんなこだわり出しちゃったから。

でもそれが明さんの生き方というかスタイルなんでしょうね。逆にこれだけはしないようにしようと決めていることってありますか?これだけは譲れないとか、これだけはやらないでおこうとか?

ありますね。こういうものって何かの真似から入っていくんですよね。ALTECのスピーカーも真似から入っていって、自分の寸法にしていって、僕が引き継いだぞ!って。オリジナルをコピーするなら、ちゃんと礼をもってそのオリジナルを超えるっていう意識をもっています。

僕は真似されても全然いいんですよ。真似されて超えられるくらいなら大したことないんです。超えられないからこの商品は元気に残っているし、なんだかんだ言って「Luv worksのものを買った方がいいよ」ってなる。うちを真似する人もそれなりにいるんですよ。自分が真似しようと思ったらちゃんとオリジナルを超える。今、世の中にこれを形にして売っていくとなったら調整が必要なんですよね。昔の音楽と今の音楽って全然違うじゃないですか、帯域も広いし。ちゃんとここから30年、50年残るものにしてあげれたらいいなって。

僕はジャズすごい好きなんですけど、ジャズがそうなんですよね。ずっと演目を続けていくじゃないですか。ビル・エバンスの有名な話があるですけど、オリジナルをアレンジしたフレーズをさらにアレンジしている人がいるっていう話。それじゃダメなんだ、オリジナルはこうなんだ、まずはオリジナルを知ってからっていう。パッと真似しちゃうのっていっぱいあるじゃないですか、世の中って。でもそうじゃなくて、オリジネーターに触れるくらいの気持ちで入っていって、真似させていただく。「なんで今更それをコピーした?」みたいなものをピックアップして当たらせるというのが得意です、僕(笑)。

今ベンチマークしているというか、真似したいと思っているものってありますか?

日本の製品だったらダイヤトーンのスピーカーとかですね。日本のスピーカーって名機があるんですけど、海外の方がすごいというのが大体の世の中の評価なんですよ。

あるんですよ、「これでしょ」っていうシンプルな箱のやつが。オーラトーンっていうキューブ型のやつもあるし。挙げていったらいろいろありますね。ALTECは絶対基礎だと思っているんですけど。これはマスタリングだったりモニターチェックのためのスピーカーだったりが元だし、映画館の音作っていたのもALTECだし。これはもうベーシックですけど。

見事なスピーカーってあるんですよね。新しいものの中にも結構あるんです。でもすごい能力高いものはひとつまみですね。100あれば3か4残るくらい。それを選定する時に、いろいろなオーディオを知っていて、聴いていないとわからないですよね。

今オーディオ以外でもカメラのスタジオを手掛けている最中ということですけど。これはどういった心境で?

オーディオの撮影なのですが、夜中の2時3時にふと、「ここで撮影したらすごくいいな」とか思うわけですよ。でもそんな時間にカメラマンなんて呼べるわけないじゃないですか。もう、まどろっこしいわ!って思ってカメラ買いましたね。

もう自分でやっちゃおうと。

はい。自分がここだっていうタイミングで撮れるようになるためには、自分でカメラを持っていて、基本的なところは全部自分で撮れるベースを持っていて、時間に出くわす必要があります。シャッターチャンスなんていつ来るかわからないですからね。そうやっていって3年近いですけど。奥さんも前の仕事を退職したし、「やるしかねーわ」って思ってスタジオも始めました。

でもオーディオと変わらないですよ。僕は一体どんな財産が残せるかな?ってことしか考えてないので。だからオーディオもカメラもムービーも変わらないですね。命かけるっていうと大袈裟になっちゃうけど、それがどういうことかってわかって作っていたら、光るものって作品の中にちゃんと残るので。

ここまでしてやる必要はないですけど、でもこれだけ痛い思いしないとダメなんだなと思ったし、人間は痛みがないとダメだなと思いました。

先ほども、死を隣に置いてから音が変わったっていうお話をされていましたが、これは写真やムービーにも反映されていますか?

そうですね。もう基準がそこにしか見えないですから。もちろんポップな仕事もしますけどね。まだ依頼はないですが、例えばコスプレイヤーの撮影の依頼が来たら、それなりに相手が望むようには撮ると思いますけど。大体僕のところにはそういう仕事は来ないと思います。

僕は一人で何かやるという風にはしないんですよ。ちゃんとプロの人たちが何人かいて、その人たちに仕事を振れるようにしておいて、自分もスタジオを持っていてっていうスタイルです。実験場なんですよ。最低限ここでこういう仕事取れるよ、プリントアウトできるよってしておいて、たまに録音でも使ったり。これは手に負えないなっていう仕事を、中継して話をちゃんとまとめてプロに渡せたら、それだけでもすごいじゃないですか。そういうところは考えて仕組みを作ります。

これは明さんにしかできないというか、あまりないポジションですよね。

だって僕、倒れたらできないですからね。だからっていうのが大きいかな。僕だけでやれるとかやろうとは何も思っていないです。ちゃんと仕事やってて、その姿を見てて、自分が倒れた時助けに来てくれる人がいるんだから。このスピーカーだって自分が倒れた時にちゃんと売ってくれる仲間がいるだろうし(笑)。

今後のLuv worksのビジョンというか見ている世界はありますか?

そうですね。ここをちゃんとリフォームして、喫茶営業できるようにしたいですね。コロナが落ちつけばお客さんは来ると思うので。あとスピーカーのモデルを5モデル増やしたいですね。小さいものから大きいものまで。それから、「日本のこのスピーカーを知っておけ!」というものはリメイク、リマジン(Re-imagine)って言った方がいいかな、そういう風にして世に出したいですね。

僕はものすごい儲けたいタイプではないので。儲けたい理由は、会社が大きくなったらその分食えるやつが増えるからです。そうやってプロモーターを増やせていけたら自分の理想形ですね。

サウンドホールを作りたい

野望的なことで言ったら、45歳でサウンドホール1つ持ちたいなっていうのはあります。シアターのシステム5本くらい入れて。札幌のプレシャスホールっていうクラブの影響が大きいですね。音の良いホールを作りたいです。

ホールを持った後の世界は?

ホールは一般的に商売に使わないと思います。コミュニティホールみたいな感じで。別に何もやっていなくても、お金はちゃんとそこで回せていて。畑の共有ができればいいと思うんですよね。そこに絵描きが1週間いてもいいし、寿司屋が3日間いるとか、写真家がいてなんかスタジオセットやってるぞとか、今日はライブだとか、スピーカー3種類変わるとか、生花やっているとか。そういう、コミュニティーホールって言うとすごい軽いんだけど、そういう風に使うと思います(笑)。

ゴーストを召喚する

僕はゴーストっていう考えを持っているんです。ゴーストを宿す、ゴーストを召喚するっていう。アルテックのスピーカー作っているのはランシングっていう人なんですよね。ランシングだったらこうやるだろうなっていうのを、その場で自分が術として体現するとか。

マイルス・デイビスだったらこういう演奏するだろうとか?

マイルス·デイビスはちょっとやばいですけどね(笑)。でもそういうくらいの気持ちでゴーストを出す意識があるやつ、無意識にやっているやつって、クリエイターでもいっぱいいるので。そういう人たちが普通に集まれる場所のイメージですね。

僕の予想だと、ホールに来る人はみんなうちのオーディオ買っていると思いますけどね(笑)。札幌の音好きな人がみんなうちのオーディオ買っておいて、底上げして、予習がちゃんとできている状態で、そのホールに来ると。

じゃあゴーストホールですね!

まあ、そうですね。でもゴーストって、今ではあまり言われなくなったけど精神論でもあると思うんですよね。ゴーストっていうのは意識するものだし。そういう力って元々持っていると思うので。僕は無宗教ですけど。「持っているものにいかに気がつくかだ」っていうのをある人に教えてもらったんですよ。僕がすごい好きな人に。一人一人持っているものを出せるホール、全員出していたら怖いけど、全員が口に出さなくてもそれを意識できるホールだったらいいなあと思います。

素晴らしいですね!

だって肉体だけじゃないですからね。僕のは肉体と精神の分離を図る装置みたいな(笑)。一回剥がしてあげないと。パソコンと同じでリフレッシュできないんですよ。で、曲が終わったらパッと戻ってきて、「はあ、すごいことされたな」みたいな。やっぱりそれくらいじゃないと音楽は絶対つまらないですよ。

いいですね。肉体と精神を離してリフレッシュしてからゴースト使いになって。

ハハハ、怪しい、怪しい(笑)

でもなんか、良い未来ですよね。

そうですね。死ぬ前に何か一個掴んでいたいですよ。音は感動できますからね。

最後に何かメッセージとか、これは伝えたいなとかありますか?

音楽って一曲一音で十分なんですよ。一瞬でもいいし。ただその一瞬を大事にするために、いかに無駄に聴かないかってことですね。駄々流しで聴いちゃうと、「これ!」って聴く時に純度が下がるというのがあるんですよ。

今でいう「アイドル」の人たちも頑張っているからこういう言い方は危ないんですけど、アイドル系の音楽って、ものすごい数の音・声を圧縮して詰め込むじゃないですか。ああいう曲や声をコマーシャル的に吹き込まれる「一回」が本当に良くない。ただ入ってくる情報をシャットダウンするって難しいですからね。

何か感動したいとなったら、いかにその時間をためて取っておくかとか、大事にして聴くとか。無駄に聴かないってことですね。ずっと聴いていたっていう人は、もっと別のものを得ているのかも知れないですけどね。

「いや、その一曲今聴くのもったいないよ」「それで聴くのはもったいないよ」って。別に高いオーディオで聴けってことじゃないんですよ。聴き方があるんですよね。Youtube見てても音楽いっぱい流れてくるじゃないですか。あれ本当避けたいなって思います。仕方がないんですけど。

そうやって大事に聴いていってあげたら、一曲とか時間にお金かけると思うんですよ、聴く人が。だから手間かけて欲しいんですよ。手間かけていって、それがお金落としていく形になって、ミュージシャンに返っていくと、本来のミュージシャンにお金が回っていくサイクルに戻っていくので。例えばブルーノ・マーズとかすごい稼ぐけど、それに比べたら日本のミュージシャンってそんなにすごい金額稼ぐわけじゃないから。もっとお金回っていいよねって思うんです。

「ちょっと待て、今この一曲聴くのやめよう」ってできて、後でじっくり手間をかけて聴く。そんな人が増えたら良いなと思います。

Information

AKIRA_ITO

伊藤明(いとうあきら)1982年生まれ。「音とともに、音を育てる」Luv works sound代表。渓流釣り、ストリートダンス、オーディオクラフトをこよなく愛し、稼いだお金は好きなものと好きなことに全て注ぎ込む生き方を実践。オリジナルスピーカーの制作や店舗の音響などを手がけ、札幌の音を人知れず向上させている立役者。近年フォトグラファーとしても活動中。

Translate »