Talent No.13

EI_WADA
Artist / Musician

  • #未来人を大混乱させる遺跡にしていきましょう
  • May 7th, 2022
Profile

和田永(わだ えい)1987年生まれ。東京都出身。ミュージシャン/妄想考古学者。幼少期に訪れたバリ島で音楽の魅力に取り憑かれる。学生時代からオープンリール式テープレコーダーを演奏する音楽グループ『Open Reel Ensemble』を結成してライブ活動を開始。アナログ放送終了日に「ブラウン管テレビの転生式」と称してブラウン管テレビを楽器化した『Braun Tube Jazz Band』のライブを行い衝撃を与える。2015年より役目を終えた電化製品を新たな電磁楽器へと蘇生させ徐々にオーケストラを形づくっていくプロジェクト『エレクトロニコス・ファンタスティコス!』を継続中。音楽を軸に、視覚的にも美しい詩的な表現をすることでも定評があり、ISSEI MIYAKEのパリコレクションのライブ演奏を長きに渡り手掛けるなど他業種からのオファーも絶えない。

根っこの部分を見ることを大切にしているという和田氏。役目を終えた電化製品を改造し楽器にしている。5年以上かけて楽器を作り、ようやくこれから曲作りを本格化する段階だという。なぜそんなことをしているのだろうか。最新のものではなく古い電化製品に惹かれる理由は何なのか。

古い電化製品に妖怪を感じた

先ほど和田さんの家電楽器の演奏を近くで見させてもらいましたけど、生き物っぽさがありますよね。

まさに、古い電化製品を妖怪みたいに感じたというのがこの活動を始めたキッカケになっています。

それは感じますね。妖怪っぽさは。

一番最初の「家電楽器」の発見は、ブラウン管テレビから出ている静電気を拾ったらヴゥーっていう音が出たことでした。エレキギターに挿すケーブルを何を思ったか自分の靴下のなかに入れて、自分自身がアンテナになった状態でブラウン管を触ったら、その時にヴゥーというノイズが鳴ったんです。

これは危険な行為ではない?

危険っちゃ危険かもしれないですけど(笑)、触っているのは微弱な静電気なんです。テレビの表面を触るとフワフワって感じることがあると思うんですど、あれです。違うのは自分の体にギターアンプが繋がっているということ。その状態でブラウン管を触った時に、いかにも電気的な音が鳴って、ブラウン管の声をキャッチしているという感覚になりました。ちょうどその次の年の2011年にテレビ放送が地デジ化されたんですよね。

切り替えのタイミング。

はい、それで、これから役目を終えていく運命の中、ブラウン管が雄叫びをあげているように感じました。

なるほど。

放送を受信しなくなったテレビが、今度は妖怪の声を発信し始めたんだなと理解、というか誤解しました。そして気づいたら朝から晩まで無我夢中でブラウン管テレビを楽器として叩いていました。今まで観てきた分、今度はこっちからぶっ叩き返そうと思いました。

これが「未来世紀ブラウン管」としての姿なんだなと確信したと同時に、あらゆる電化製品は、電気信号をキャッチすることで妖怪へと転生するのではないかと考えるようになりました。そして、その音を片っ端から聞いてみたいなと。それで2015年に家電楽器のプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」を立ち上げて、あらゆる人々とともに様々な電化製品を妖怪楽器へと蘇らせる試みを続けています。

シャーマンみたいですね。

テクノロジカルなシャーマンですね(笑)。日常生活の中には、普段聞こえない音が隠れているということを実験を重ねるうちに実感していきました。ラジオはまさにそれを聞くための装置ですね。空気中に音を乗せた電磁波が溢れているという衝撃的な事実を示してくれる。電気的な変換を加えることで音が鳴るということですね。地球の裏側からも音が飛んできているけど、普段は気づかないですよね。

拾えてないだけで。

拾えてないだけで、拾うとそこに実体というか波があるっていうか。

もうシャーマンですね、発想が。

「音よ、そこにいたのか」みたいな感じ。身近な機械だったり環境に色んな波が溢れているんですよね。そういうのをいろんな人と見つけようというか、一人ではなく、巻き込み型、参加型のプロジェクトとしてみんなで発見していこうということをやっています。家電というのはどこの家にもある、中古電化製品屋にもあるすごく身近なテクノロジーなので、入手しやすい。そこから、テクノロジーに宿っている、便利かどうかとは別のワイルドサイドを見つけたいなと。

魔改造してね。

そして、その音から音楽を立ち上げてみたらどんなだろうという感じです。

さっきも和田さんの演奏を見させてもらいましたけど、この扇風琴(せんぷうきん。扇風機を魔改造した楽器)は羽を変えれば扇風機にもなるって言っていたじゃないですか。扇風機の時は扇風機としての役割があるけど、和田さんに担がれた途端に妖怪に変化するみたいな、そういう雰囲気を感じますよね。生き物として動き出したみたいな。

ヴェルヴェッツ、電子音楽、民族音楽

僕は元々民族音楽が大好きで、民族楽器にも興味があって、トルコの弦楽器を弾いていた時期もありました。面白かったのが、まず音階が違うところ。

12音階じゃない。

国際標準のチューニングや音階とは違って、その地域で独自に発展してきた音階だったり、音色があったりして、それが今やっていることにものすごく影響を与えていますね。オクターブって周波数で言うと倍になっているんですけど、その間をどう割っていくかというところに音階は違いがあります。西洋の12音階であるドレミは、時計のように割ることで合理的な音階として定着していると思うんですけど、アラブとかに行くと全然違う割り方があって、白鍵と黒鍵の間の音があったりして、なんじゃそりゃ?っていう音階があったりします。

それで演奏された音楽を聴いた時に全然違う何とも言えない感情になったというか。悲しみと喜びが同居しているような、不思議な感覚でした。それこそパクチーを初めて食べた時のような、なんだこの感じは?という違和感から徐々に癖になるような、そういうのがすごい面白いなと思って、それで民族音楽にドハマりしました。

それはいつくらいなんですか?

中学、高校くらいの頃ですね。もちろんロックやテクノも聴いていましたけど、民族音楽も大好きで聴いていました。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドから電気の歪みの恍惚感を知り、クラウト・ロックから電子的な響きの魔力を知り、民族音楽からは音楽そのものの捉え方というか、根源的な魅力を教わりました。

妄想考古学

そして現代、色んな国で伝統的な楽器や音楽が電気化しているんですよ。

最近の、現代のやつが。

例えばアフリカのコンゴ共和国ではカリンバに電気のピックアップをつけて、完全にディストーションで歪ませちゃった音でダンサブルな音楽を奏でていたり、トルコでは伝統的な弦楽器であるサズがエレキ化していて、中東のあの摩訶不思議な音階にディストーションやワウがかかる音楽が演奏されていたりします。最近は南アフリカで「ゴム」と呼ばれるアフリカ特有のリズムセンスを基盤とした電子音楽が生まれていたり、タンザニアでは「シンゲリ」と呼ばれる伝統音楽をテープで早回ししたような音楽が生まれていますね。なんじゃこりゃっていうような。そういえば日本にもエレキ三味線ってありますよね。

そうですね。

電気っていう近代的なものと古来からの土着的なものが融合したときに、ある種のマジカルなことが起こるなと感じました。学生時代、そんな音楽に触れていた時期に、ブラウン管を触ったらヴゥーって鳴って、その電磁の響きを聞いた瞬間に、知らない異国の楽器がやってきたという感じがしました。見慣れた機械なのに。

異国の楽器ね。

どう使うのかもわからないし、どう演奏するのかもわからない。途絶えてしまったロストワールドがあって、そこにはブラウン管や扇風機あるいはオープンリールの演奏体系があったとしたら、音が鳴るのでこれが楽器だということだけは分かるんだけど、どうやって演奏するのか、どんな曲が演奏されていたのかは完全に途絶えていて分からないみたいな。

なんか発掘している感もありますね。考古学というか。

そうそう、考古学、妄想考古学!だから、ファンタール人、テレタール人の遺品ですみたいな。放送を見ていたとか風を送っていたという機能は知らない状態で「どうやって演奏してたんだろうな」って考えて編み出していく感じです。仲間と深夜チャットしながら「ファンタール人ってどうやって演奏していたと思う?」って話したりして(笑)。「扇風機を弾くことで風と会話してるはず」とか(笑)。

議論して。

小学生枠ですけど、発想が(笑)。家電の仕組みや電気に詳しいエンジニアや、プロダクトデザイナーの方、プロアマ問わずミュージシャンの方々が仲間に加わって、話したり作ったりの日々ですね。「どんなふうに演奏されて、どんな風に音を鳴らしているんだろうね」ということを妄想し合いながら創作を続けています。

みんなでやる

これは和田さん一人でやるんじゃなくて、みんなでやるっていうのが大きいんですね。

大きいですね。まさに今ここに並んでいるブラウン管の楽器は、家電関連メーカーに勤めているエンジニアの鷲見さんという方ががっつり設計して作ったものです。人が集まるとシンプルに何かを発見する確率が上がるんですよ。ひとりで閉じこもることも大事ではあるのですが、人が集まることで偶発的なことが次々と起こります。ああなんじゃないか、こうなんじゃないかというのが飛び交って色々と生まれるんですよね。

予期しないことが起こると。

ミュージシャンとエンジニアってそもそも考え方が違っていて、ミュージシャンはどうやって幻想世界を音で奏でるのかがテーマで、エンジニアはより現実的な機構と向き合って実装していく。そこが行ったり来たりするのがこのプロジェクトをやっていて面白いところですね。

ミュージシャン側の「こう奏でられたらいいな」というのをエンジニアチームが汲み取って形にしていきます。このフィードバックを通じて、「ああ、ミュージシャンってそういうところが大事なんだ」ってエンジニア側は把握していって、ミュージシャン側は「そこにそういう工学的な考え方が潜んでいるんだ」っていうものを吸収していく。その化学反応がすごく楽しいですね。ただ便利にしていけば良い訳でもないこともあったりして、その正体について考えていくと、結構根源的なことが潜んでいて面白いです。

全然違うんですね。

そうですね、いろんな人が関わってね。プロジェクトは今いくつくらいやっているんですか?

古い家電を楽器化するプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」がひとつ。もうひとつ「Open Reel Ensemble」というバンドを10年くらいやっていて、カセットテープより前の大型なオープンリール式のテープレコーダーを複数人で楽器として演奏するグループです。録音テープが巻いてあるリールという部分が剥き出しの機械なので、直接手で回してスクラッチしたり、テープを引っ張り出して叩いてパーカッションのように演奏したり、テープを竹竿に張って弓のように演奏したり。とにかくオープンリールだけで演奏する磁気偏愛バンドです。主にこの2つです。

どれも考え方は近いというか、本来楽器ではないものに妄想考古学を適用していますね(笑)。例えば廃墟と化した磁性球体の神殿都市から少し南に離れた電線ケーブルのジャングルの奥地にあったオープンリール集落ではこれをどういう風に演奏していたのだろうか?と考えて検証していくような。

発見してハッキングする

今でも発見があるんですか?

ありますね。むしろ今までなぜこれを気づかなかったんだろうっていう発見があります。オープンリールもそうですが、僕が使っている機械は古い一世代前のものです。昭和の時代に使われていた、各家庭に広がっていたテクノロジーの、そして時代の藻屑となっていっている機械たちです。剥き出しというか、ゴツいというか、一個一個の部品が大きいというか。

最新の機械はどんどん小型化されていて、中に触れられない状態になっていますよね。開けても部品がミクロで素人目にはよくわからない。改造して遊ぶとしたらソフトウェアへのハッキングになっていると思うんです。ソフトウェアだったらタッチしやすいですよね。でも僕が扱うものは無骨で洗練されていないというか。オープンリールも剥き出しで、まさにオープンで。テープは絡まるし、指も突っ込めるし。でもコアな機能が隠蔽されていないからこそ、考古学的に「これは手先とどう関わっているだろうか」という接点を考えていけますね。

接点をね。

剥き出しだからこそ遊びがいがあるというか。テープが絡まっちゃうくらい剥き出ているからいじくれるんですよね。そうすると音も有機的に変わるんですよ。回転で音が揺らいだり、直にテープをいじるとそれがそのまま音として音波として出てくる直接性があって。ハードウェアの方にハッキングの余地がありますね。

開発している感じなんですか?それとも発見のほうですか?

ハッケングですよ。発見してハッキングするみたいな。

和田さんたちが開発している、クリエイトしているというよりは発見なんですね。

確かに発見から始まっていますね。点と点が線になるみたいな感じ。扇風機が回っているという現象があって、レコードもオープンリールも回って音を出しているので、回ることって音と関係しているんじゃないかと。

そういう仮説を立てるんですね。

そこで繋がってきます。この扇風琴も原理としてはレコードと似ていて、回るってことは同じ周期を生み出していくということに繋がって「おや?これはそういうことか?そういうことなんじゃないか?」と妄想考古学の勘が働いていきます。

そうやって発見からハッキングしていくと。

そうですね。

妄想考古学界注目の家電楽器

妄想考古学界で最近注目している家電楽器はあるんですか?

色々とありますが回転するものだと室外機ですね。

室外機!それは盲点でしたね。

街を歩いていると、雑居ビルに室外機が所狭しと並んでいる室外機のジャングルに出くわすことがあります。あれはもうシンセですよ、巨大シンセ!

巨大シンセね。あれだけ密集していたらね。

あれだけ密集していたらもうすごいですよ。僕は指揮しちゃいますからね、あれに向かって。脳内では聞こえています。雑居ビルから放たれる爆音の調べが。あとネオン管にも最近注目しています。

へえ、ネオン管ですか。

ネオン管もガンガン出しているんですよ、電磁波を。ネオン管が光っているところでラジオをつけると泡が弾けるようなすごい音がするんです。なのでネオン管は熱い眼差しで注目していますね。

いい妖怪が潜んでいると。

いい妖怪になれるかもしれない。またネオン管って無くなっていく運命ですからね、LEDに押されて。

確かに確かに。

やっぱりアイツはギャーーー!っていう声を出しているんですよ。ポンジュースっていう文字のネオン管とかあるじゃないですか。あれもすごい出てると思いますよ、凶暴なデスボイスが。気づいてないだけで。切れかかったやつが点滅したりするじゃないですか。あれもグリッチテクノが奏でられているんですよ。聞こえていないだけで。

家電のセカンドライフ

なるほどね。和田さんには救済という気持ちもあるんですか?

救済?

和田さんが扱う家電は役目を終える子たちじゃないですか。もし気づかなければそのまま廃棄されるだけなので。

ああ、なるほど。救済というよりは育成ですね。彼らは言ってしまえばご老体なんですけど、まだ訓練すればカンフーだっていけるんじゃないかって。

めっちゃカンフーできる(笑)。お爺ちゃんが。

もうご老体だと思ってしまっているけど、もしかしたらそれは思い込みかもしれないという。また違うセカンドライフがあるんじゃないかと。

セカンドライフが(笑)。そういうのが面白いですよね。僕も鳥取県に移住して廃校の教室をリノベーションしてオフィスにしたり、今住んでいる家も元デイサービスの家で、お風呂が2つトイレが3つあるような面白い家で、ちょっと発想が似ているなと思います。役目を終えた人たちに違う役目を与えるっていう。だから和田さんがどういう風に考えているのか、どういう問題意識があるのかにすごい興味があります。最新の電子楽器とか電化製品とかは扱わないじゃないですか。

やっぱり古い家電の方が自分にとってはタッチできる領域が広かったということですね。あとは妖怪や付喪神(つくもがみ)のビジョンから影響を受けていて。付喪神って99年経ってようやく物体に命が宿る。忘れられた頃が逆に旬ですよね。

ガルーダの衝撃

和田さんは子供の頃から、妖怪とかお化けとか目に見えないものが好きだったんですか?

大好きであり、大嫌いでしたね(笑)。4歳くらいの時に家族旅行でインドネシアのバリ島に連れて行かれて、現地でガムランの演奏を聴いたんですけど、それはすごく衝撃的というか記憶にこびりついています。演奏中に化け物が出てくるんです。ガルーダっていう眼がギンギラギンのガンギマリの鳥の神様のお面をつけた人が金属的でミニマルな音楽に乗せて踊るんですよ。それがめちゃめちゃ怖くて。それで化け物っているんだっていうのが刷り込まれました。

そこが原体験なんですね。

原体験かつトラウマになっていて、「悪いことしたらガルーダにさらわれちゃうよ」って親に言われていました。ホテルのロビーにガルーダのでっかい置物があったんですが、その前を通るだけで怖いんですよ。コイツにさらわれるのかっていう感覚。ガルーダの自分のなかでの存在感がものすごく大きかったです。ナマハゲみたいなものですね。

ナマハゲ的なね。

ガルーダって眼以外もギラついているんですよ。四方八方に金色の羽が伸びてて。日本に帰国してから、ブラウン管テレビに砂嵐が流れたりノイズが走ったりすると、テレビの向こうにガルーダがいるんじゃないかっていう妄想というか想像が広がっていきました。

そこなんですね。

そこですね。放電しているみたいな感じなんですよ。静電気がパチンとなったり、電球が切れたりすると、「ガルーダかも」みたいに感じたり。そういう感覚がありました。

ガルーダの存在が大きいんですね。

そうなんですよ。テレビとかラジオとか電球とか換気扇とか、電気で動いているものの向こうにガルーダがいるみたいな、ガルーダが別次元から電気を送っているみたいな、そういう感覚が今もあります。ブラウン管テレビから音が鳴った時に、ブラウン管の声のように感じたんですけど、それって電気の声、ひいてはガルーダの声でもあるとずっと思っています。

なるほどね。それをキャッチしている感じなんですね、妖怪の声を。

ちょっと怖いものでもあるんですけど、「ガルーダがついてる!」みたいな感じもあります。

守り神的な。

逆に強い感じというか、「ガルーダいるから大丈夫!」っていう感覚(笑)。

和田さんのライブとかプレイを何度か見させてもらっていますけど、いつも楽しそうですもんね。

あれ、ガルってるんですよ。

ガルってるんだ。

ブラウン管触ってヴゥーっていう音が鳴った時もそうですけど、要はガルってるんですよ。ガルみが強いかどうかが大事。ガルってるかどうかっていうのは自分が音楽を作る時に大事にしていることのひとつですね。

電化製品がパレードする奇祭

これから向かっていく未来というか、こういうのを思い描いているとかはあるんですか?

脳内世界のイメージを音楽や映像としてアウトプットしていきたいと思っていますね。あとはやっぱり奇祭ですね。

奇祭?

奇祭です。音楽ライブはステージがあってそこで演奏するのが1つのフォーマットになっているんですが、ステージごと動いていきたいなと。祭りで山車が動きながら演奏するじゃないですか。あの電磁バージョンです。

百鬼夜行的なね。

まさに。都市の廃棄物となった古い電化製品たちが妖怪になって、音を鳴らしながら街中を突き進んで行って祭りになっていくような。そういうことをやってみたいですね。

百鬼夜行っぽいですね。

なんかこう日常の延長にある非日常というか。ステージでしっかり演奏するっていうのももちろん大好きなんですけど、突如日常空間に妖怪になっちゃった電化製品がパレードするみたいなのをやってみたいですね。

良いですね。ディズニーとかユニバでやるのもいいんじゃないですか?

それはないです(笑)!いや、でもやりようによってはハッキングになるかもしれないですね。

そう、ハッキングに。

突如始まるエレクトロマグネティックパンクパレード、アリかもしれない。

映画のなかで家電を演奏する登場人物

あと映画も好きで、映像作品も和田さんのなかでは大事なものという話でしたよね。

そうですね。元々映画が作りたいと思っていた時期もありました。

どんな映画ですか?

やっぱりサイエンスフィクションですかね。

もう頭のなかにあるんですか?

話始めると長くなりそうなので、やめておきます(笑)。ただ、家電楽器化プロジェクトを始める時も先に映像が浮かんだんですよね。ゴミ捨て場で電化製品を拾い集めた人々がどこかの町のストリートでセッションを始めるみたいな。ブラウン管のバンドが路地裏で演奏を始めるみたいな。そんなイメージがパーンと浮かんで。

頭に浮かんで。

それをやってみたいなと思ったのも活動を始めるひとつのきっかけになっています。当然そういうバンドはないので、じゃあ自分たちがやるしかない。

へえ、面白いですね。

映画のシーンが浮かんだような感じ。

その時浮かんだ映画を今作っているみたいな感じ。

そうですね。フィルムの中ではなくリアル世界で、サイエンス・フィクションではなく、サイエンス・ノンフィクションをやっていますね。

なるほどね。

映画の登場人物というか。そこで鳴っている音はサウンドトラック的なところがあるし、僕らは家電を演奏する登場人物という感覚です。

映画から着想やヒントを得ることもあるんですか?

はい。だいぶ映画の影響は大きいですね。ただ、映画を見ていて思うのは、不思議な楽器が出てきても、基本的には造形作家さんが作って役者が演技した絵にシンセで音を当てていると思うんです。でも僕は不思議な楽器からは、ちゃんとその形状だからこそ鳴る音が出たらヤバイと感じていたので、それをやりたいというのがあって今のような活動をしているのかもしれないですね。

なるほど。

その物体や奏法だからその音だっていう。美術セットや当てぶりではなく、本当に機能するもの、リアルにそれが起こるというもの、それをつくってみたいですね。マッド・マックスも演奏するならディーゼル・エンジンでしょう!そういうの、クリストファー・ノーランだったらつくっちゃうかもですが。

その発想はユニークですね。

ひょっとすると僕たちは背景かもしれないですね(笑)。物語の主人公とヒロインがいろいろやっている後ろで演奏している、後ろにいる奴らかもしれないです。

そういうコラボはしたことはありますか?

いや、ないです(笑)。

それ面白そうじゃないですか?

そうですね。映画とか是非出演オファーをお待ちしています。SF映画の背景に是非僕らを使ってくださいって思いますね。火星での盆踊りシーンやアンドロメダ不法移民船内での儀式シーンで、何か背景に足りないなと思った時は是非。

それは観てみたいです。背景なんですね。

フィナーレの伏線回収にも出てくればなお最高です(笑)。

最後に

今回初めて和田さんを知る人もいるし、昔からのファンの人も見てくれていると思いますが、最後に、何かメッセージをいただけますか?

僕は本来楽器ではないものを楽器にするということを続けています。曲を作る前に楽器から作っていて、そんなところから音楽を作ることなんてレアケースだと思うんですが、土台になっているものから考えると色んな発見があります。

なぜこの音階なのかとか、なぜこの音色はこんなに魅力的なのだろうかということを、根っこの部分から考えたり、見えていなかった可能性をもう一回発見したりすることがあります。

哲学者みたいですね。根っこを見たり、見えないものを見たり。

なんか恥ずかしいな(笑)。なんというか、僕らはより新しいものに意識が向きやすいというか、それを追い求めがちですが、と同時にものすごく古いものや一番根っこの部分を探っていくと今まで見つからなかった景色と出会う瞬間があるんですよ。

根っこを見ていくと。

例えばギターも多分最初は楽器ではない糸を張ってはじくところから始まっているはずですよね。そうやって原子を見るみたいな感じで見てみると、また何か見えてくるものがあって。そこからもう一回別ルートを立ち上げてみると、逆にこれまでに無かったフレームが見えてくるかもしれない。

なるほどね。全てに共通するような話かもしれないですね。根っこを見るという。

そうですね。僕らは先人達が長い年月をかけて積み上げてきた歴史の上にいるんですが、その最先端と最根源を常に行き来するといいんじゃないかなって思います。

確かにね、見えていないものが見えてきたり。

自分が今やっていることは、ものすごく発展途上というか、音楽としても不完全なものですが、僕にとっては仲間とともにその未開拓なところを探っていくのが楽しいですね。一回文明が滅んで、もう一回電化製品たちを土の中から掘り起こして、「これが20世紀のテクノロジーか。ここから音楽作ってみるか」と。そんなことをやっている感じです。

なるほどね。

さっき考古学という話が出ましたが、別視点で昭和を掘っている感じはありますね。令和になって。

令和になってね(笑)。

しかもアホな考古学者なので扇風機とは思わないみたいな。「楽器じゃないか?」っていうおかしな方向にいっているっていう。物ボケに近い感じで。スプーンを見て「これは何に使われていたんだろう?これだ!」っていうものが全然合ってないっていう(笑)。

確かにね。

今日インタビューで話して「それだ!」って思いました。全然当ててない考古学者。

当ててない考古学者(笑)。でもそっちが正解かもしれませんよ。

そっちを正解にしていくっていうね、令和から。それで未来で発掘したちゃんとした考古学者が間違えるっていう。

本当は風を出すものだったという。

「これどっちかな、ネックついてるけど。放送を受信していたにしては変な形だけど、でもアンテナついてるしな」みたいな感じで混乱を後世に残す連中。未来人からしてみたら大迷惑ですね(笑)。

ややこしくなる。

ややこしくなるの良いですね。

そうですね。未来人へのメッセージみたいな感じですね。問いかけみたいな。そうやって発掘活動を続けていくと、将来的には街ができるかもしれないですね。和田タウンみたいな。

いやいや、タウンはないと思いますけど。でもちょっとそういう場所があったら面白いかもしれないですね、公園のような。

公園良いですね。昼と夜で顔が変わる。

最終的に未来人を大混乱させる遺跡にしていきましょう。

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和田永(わだ えい)1987年生まれ。東京都出身。ミュージシャン/妄想考古学者。幼少期に訪れたバリ島で音楽の魅力に取り憑かれる。学生時代からオープンリール式テープレコーダーを演奏する音楽グループ『Open Reel Ensemble』を結成してライブ活動を開始。アナログ放送終了日に「ブラウン管テレビの転生式」と称してブラウン管テレビを楽器化した『Braun Tube Jazz Band』のライブを行い衝撃を与える。2015年より役目を終えた電化製品を新たな電磁楽器へと蘇生させ徐々にオーケストラを形づくっていくプロジェクト『エレクトロニコス・ファンタスティコス!』を継続中。音楽を軸に、視覚的にも美しい詩的な表現をすることでも定評があり、ISSEI MIYAKEのパリコレクションのライブ演奏を長きに渡り手掛けるなど他業種からのオファーも絶えない。

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