NOBUYOSHI_NOZAKI
/ Specialty Store Owner

Profile

野崎 宣嘉(のざきのぶよし)静岡県出身。お酒を楽しみながら衣料品、バッグ、財布などを直接見て購入できる銀座のセレクトショップnobunoza代表。長い時間をかけてイタリアのメーカーと信頼関係を築き、ここでしか手に入らないオリジナル商品を企画販売。全国にファンを抱え、野崎さんに頼めば手に入らないものはないと言われるほどの信頼を獲得している。

やるかやらないか。岐路に立った時はやる方に賭けてきたという野崎氏。服の素材がケミカル素材からウールに戻ってきていることとテスラの車が売れていることに次の時代を見るという。なぜ氏はわざわざイタリアまで行って人と直接話すことを大切にしているのか。こんな時代だからこそリアルが大切だというのはなぜなのか。

知りたかっただけ

ー nobunoza を始めたきっかけは何だったんですか?

20代後半くらいに会社を辞めてヨーロッパを半年くらいかけて旅行しました。その時にただ行くだけじゃつまらないから、いろんな国の展示会を見て回りました。カテゴリーも国も決めずに手当たり次第。

イタリアのフィレンツェのバッグ屋さんで、ミペルという展示会がミラノであることを教えてもらって行きました。バッグがメインの展示会ですが、その時に知り合った人たちと3年後くらいに輸入を始めました。それがきっかけですね。

ー 野崎さんは元々ファッションがお好きだったんですか?

いや、嫌いじゃないんですけど、ファッションが好きだから行ったというより行ってみたいと思っただけです。知らなかったから知ってみたいと思っただけですね。

ー じゃあこういう商売をやろうとかではない。

全くなしです。名刺持っていけばどこでも入れるってことは分かっていたから、本当に手当たり次第回りました。ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、イギリス、スイスなどいろいろな国の展示会に行きました。

直接仕入れて直接販売する

ー はじめは静岡でお店を立ち上げたんでしたっけ?

そうです。38年前くらいですね。浜松で路面店を立ち上げました。

ー その時から名前は nobunoza ですか?

いや違います。でも形式は今とほとんど一緒ですね。直接仕入れて直接販売するという今と全く同じことをやっています。それがはじめからのコンセプトだったんですね。

ー 今でこそ多いですけど、当時は珍しかったんじゃないですか?

多分浜松では誰もやっていなかったんじゃないですかね。私みたいなほとんど個人みたいな人がメーカーから直接仕入れるって、今でもあんまりないんじゃないですかね。商社と同じようにやっていますから。今でもイタリアのメーカーさんと取引している人はあまりいないって言いますね。出来上がっているものを買ってきて売る人はいるかもしれないけど、作ってもらったものを売っている人はあまりいない。ましてやこちらから「こんなもの作って」ってお願いして作らせている人は今でもあんまりいないと思います。

ー それが nobunoza のユニークなところですよね。

最初はイタリアのメーカーが作っているものを輸入して売るだけだったんですけどね。

ー セレクトは野崎さんが。

そうです。メーカーさんが作ったコレクションを私がセレクトしました。

ー それはどういう基準で選んでいたんですか?

私が選んだだけです。

ー じゃあ野崎さんの感覚で。

そうです。それだけです。昔はABC分析などやっていましたけど途中から一切やめました。これをやるとお客さんの感覚に合わせるようになるんです。4、5年経った頃に自分のお店の商品を見て愕然としました。全然面白くない。売れるものしか買っていないから。売り上げ分析とかするとそっちのほうにいくんですよ。始めた当初は本当に好きなもの買っていたので、そういう意味で面白さがあったんですが、それがなくなってどんどんコンサバになっていきました。

手放さないと次に行けない

そのお店を立ち上げて3年で完全な黒字になりました。借金も全部返して。でも7年後くらいにお店を全部譲っちゃいました。

ー それはどうしてですか?

私は立ち上げるのは得意な人で維持するのは苦手な人なんですよ。

ー 飽きちゃったんですか?

まあ簡単に言うとそういうことです。みんなにびっくりされました。その時は私1人で7、000万円くらい売っていましたからね。35年くらい前の話ですから今で言ったらかなりの金額になると思います。

ー そうですよね。

それを株だけの評価額で売りましたからね。その時は資本金が300万円か400万円だったので、その金額で譲ったんですよ。

ー そうなんですか!

ショッキングでしたね。売上がそれくらいありましたからね。どうして?ってみんなに聞かれました。

ー まあ、そうですよね。でも野崎さん自身は飽きたというか、次にやりたいことがあったとかなんですか?

そうしないと次がないと思ったんです。

ー 野崎さん自身の? お店のですか?

お店というか、今のことをやっていたら次のやりたいことに行けない。

ーなるほど! 手放さないとっていう。

そうです。それだけのことです。

やるかやらないか

私はやるかやらないかという岐路に立った時はやるほうに賭けるんですね。その岐路に立ったんです。次のことをやるかやらないかっていう話になってやる方に賭けたんです。ということは今のことをやめるしかないんですよ。

ー その辺結構スパッと行くというか、チャレンジャーですよね。

まあチャレンジャーって言葉が合っているかどうかはわからないですけど。

ー 自分に嘘がないというか。

いや、それも言葉が違いますね。単純です。やるかやらないかだったらやる方に賭けます。それに理由はああだこうだないんですよ。

ー でも結構怖がる人いるじゃないですか。当時7,000万円の売上出てたら手放したくないっていう人も結構多いと思うんですけど。

でも今の話からすると、やるかやらないかでやるほうに賭けるから条件は関係ないんですよ。

ー 条件とか全く関係ないと。

はい、関係ないです。そうしないとできないですよ、そんなことって。

ー 確かに踏み出せないかもしれないですね。

何かをやろうと思ってもやる人はほとんどいないと思っているんですよ。

ー 大体現状維持というかね。

やろうとか、ああだこうだ言う人はいっぱいいますけど、でも本当にやる人は本当に少なくて。3%くらいかもしれないですね。

ー そうですよね。

ああだこうだ言ってみんなやめるわけですよ。でもやらないと結果が出ないですよね。良い結果が出るかもしれないし、悪い結果かもしれないけど。やらないと何も起こらないですよね。そういう意味で私はやるかやらないかなんですよ。

ー それは引き受ける覚悟があるからですよね、どんな結果でも?

いや、そこまでないです。予想できるから覚悟できるんですよ。

予想できるから覚悟ができる

覚悟できるってことは予想しているってことです。でも実際は予想以上のことが来るんですよ。覚悟という言葉があるってことは、ある意味それが想定できるってことですよ。だけど想定できないことがやって来るんです。だから私は覚悟ってできないと思っているんです。

ー なるほどね。想定できないから。

はい。だからやるかやらないかだけっていうのはそういうことなんですよ。だって、やらないってことはある意味いろいろなことを想定しているわけじゃないですか。

ー 確かに。

だけどできないわけですよ、そんなことは。分からないから最後は感情だったりするんじゃないですか。損得勘定なんて考えずに頭にきたからやめるとかいう話もあるじゃないですか。私の場合も損得勘定なんて全くなしですよ。

ー 当時お店を譲った時も割とスパッといったんですか?

そうです、スパっとですね。

ー 悩んだりもせず。

そうですね。譲った人は特にお店の経験もないので、その人が自分で運営できるようにしてからやめました。

ー 東京に来た理由は何なんですか?

東京で店舗を作った知り合いがいて。店舗が入っていたんだけどオーナーがやめちゃったらしいんですね。良い店舗だったのに。それで空いちゃったと。「もったいないから、野崎さん使ってくれないか?」って言われて。何回か断ったんですが、結局入ることになりました。それで東京に来たんですけど、大変でしたよ。だって売り上げないですからね。1年くらいキツかったですね。

ー それは銀座ですか?

いや、永田町です。今だったら絶対にお店出さないですよ。だって人来ないですからね。人歩いてないですから。そこで4年くらいやって、ちょうど契約更新の時期だったし、家賃値上げするっていう話になっていたのでお店を探し始めました。不動産屋に探してもらっていたんですが、「銀座に空きがあったよ」と連絡があって、すぐに見に行って即決めました。銀座に店を持ちたいということではなくたまたまです。代官山とか他も探したけど縁がなくて。銀座に店持ちたいっていう人いるじゃないですか。そういう人には申し訳ないけど本当にたまたまです。

ー 野崎さんと言えば銀座のイメージが強いけどたまたまなんですね。

はい。たまたまなんですよ。

ー もう銀座が一番長いんじゃないですか?

銀座が一番長いですね。

ー 当時はバーとお店と両方やっていましたよね? バーをやるきっかけは?

なんとなく昔から紙に書いていたんですよね、バーをやりたいって。そしたらお店の近くにテナント募集の張り紙が貼ってあって、それを見たのがきっかけですね。金曜日の夜に張り紙見つけて月曜日の朝に電話して。不動産屋さんから「すぐ来てくれ」って言われて行って水曜日に契約しました。

ー 早いですね! 迷いとかないんですね。

10年くらい前に紙に書いてなかったら多分やっていないです。なんとなく頭のなかに構想があったので。だから踏ん切れたんだと思います。

ー いつかやろうと思っていたんですね。

やろうっていうより自分の飲むところが欲しいって感じですね。自分だったらこんな店にしたいなとかあるじゃないですか。そういう感じです。自分が飲む店を作りたいなっていう、そっちの方が強いですね。

ー nobunoza は全体的にそうですよね。置いてある商品も。

まあ、そうですね。他の人にできないっていうのはそういうところにあるんですよね。

ー 野崎さんの世界って感じですよね。

良くも悪くもそうですね。

ー 扱っている商品が本当に多岐に渡るじゃないですか。これも大きな特徴だと思います。

イタリアってそういうところなんです。1人の人を知るといろんなリレーションができる。こんなもの欲しいと言うと「じゃあ、あそこに行ってみろ」と紹介してくれたりします。その広がりで今こういう風になっています。日本でも同じだとは思うんですが、イタリアはその傾向が強い気がしますね。

ー 今どのくらいのジャンルを扱っているんですか?

バッグ、革小物、ネクタイ、傘、ベルトがあって、衣料も革もワイシャツもニットもあるから。全部で10数社と付き合っていますね。親しい友達もいて、その人もすごいリレーション持っています。私よりずっと。メンズの関係やらせたらイタリアでも有数のお店のマネージャーだった人です。この業界の人はみんな知っています。そのつてをたどると本当に何でもできますね。

ー 野崎さんがそういう方と繋がっているのもものすごいことだと思うんですけど。

私はデザイナーでも販売の人でもない、私はどっちかというとモノを作る人です。実際に作るというよりコーディネートする人。いろいろなメーカーさんと繋がっている作り手側の方です。

ー 個人的にはフィクサー感がすごいなあと思っていて(笑)。

まあ、でもある意味コーディネーターってそういうことですよね。何をどこでどう作るかということですよね。

時間というビッグデータ

ー そんなところ野崎さん入れるんだ!っていうところまで入り込んでね。

それはやっぱり時間が大きいです。例えばローマで服を作ってもらっているジョバンニという人がいるんですけど、その人はサルト(仕立て屋)です。そろそろリタイアするんですけど。

彼を見ていると、時間をかけないとできないことがあるっていうのがよく分かるんですね。縫ったりすることはある意味簡単にできるわけですよ。型紙も起こせるようになるかもしれない。彼はいろんな人のパターンを型紙に起こして尚且つそれを縫いあげているわけですが、島田さんはよくご存知だと思いますが、縫うだけじゃなくてアイロンでいせ込み(注:平面的な布に丸みをつけて立体的にする方法のひとつ)で生地を動かしているわけですよ。

彼は人の体型を見ると、この人にはこういうものが似合うとイメージできるわけですね。それは場数をものすごく踏んでいるからできるんです。彼はフィニッシュをイメージしながら型紙を起こしているんですけど、いせ込みを考えながら起こしているんです。だから本当に無限のように型があるわけです。場数を踏んでるってことは時間をかけているってことです。そうしないとデータが取れないんですよ。

ー そうですよね。

ジョバンニは10歳前くらいから丁稚をして、12歳くらいから働き始めて独立したのが35歳です。私が会ったのは60歳前くらい。それだけビッグデータがあるわけですよ。それが時間がないとできないことです。縫うことはできる。素晴らしい技術も持っている。でも時間がないとどうしようもないことがあるんですよ。それをすごく感じるんです。

ー 確かにそれは僕も nobunoza を通じて野崎さんに感じますね。

彼のやっていること全てに意味がある

多分島田さんもいろんな方に会ってらっしゃると思いますが、そういう部分を持っている方っていると思うんです。私は以前、ある若いクチュール(仕立て)関係者をジョバンニの元に連れて行ったことがあるんです。若い彼はジョバンニの仕事を見て、「彼のやっていること全てに意味がある」と言いました。

例えば生地をちょっとずらすことにも意味を込めてそうしていると。でもそれはジョバンニにとって当たり前すぎて、説明ができないって言うんです。「何でも聞け」って言われても彼が聞けることは限られているじゃないですか。見えていることは「それ何?」って聞けますよ。でも見えないこと、スルーしてしまうことがあるじゃないですか。

ー そうですよね。

例えば1時間あったら5分くらいは質問できるけど、残りの55分は質問することが分からないわけですよ。ジョバンニにしてみたら、やっていること全てに意味があることは分かっているけど、なんでやっているのかが当たり前すぎて説明ができないわけです。普通にやっているから。

ー 確かに。

若い彼にはそれが見えるんです。でも見えないこともいっぱいあると。彼は、「圧倒的にすごい人に会ったのが一番の収穫だった」と言いました。それはやっぱり時間ですよ。時間はどうしようもないんですよ。この人にはこれが似合うということをソフトとして分かるためには時間しかないんです。

ー 確かにね、ここが超えられない壁ですよね。

超えられない壁です。だから「超えられないものがある」ってその彼は言ったんです。「得るものはたくさんあるけど、1年や2年の単位じゃその壁は超えられないですよ」と。時間っていうのはそういうものです。

ー nobunoza にしても野崎さんが40年近く見てきた蓄積がありますもんね。

そうですね。多分私が意識していないことがいっぱいあるんだと思います。私にとっては普通のことだけど、他の方には見える部分も見えていない部分もあると。さっきのサルトの話でも、「何で?」って聞けるところは彼が見えている部分だけど、見えていない部分がいっぱいあって質問ができないわけです。

ー そうですね。

目で見えているだけで意味が見えていないんですよね。質問できるというのはある意味分かっているからです。でも分からなことがいっぱいあるので、だから時間がかかるんです。

私に関しても同じで、私が普通にしていても多分何か意味があってやっているんですね。でも私はそれを意識していないし、他の人にしても見えることも見えないこともあるということです。

ー そうですよね。じゃあモノを作る時、クリエイティビティを発揮させる時は時間というものを重視しているということですか?

それも必要だと思いますね、もちろん。私はそれなりにデータを持っているわけですね。いろんなところを見たり比べたりしていますから。そういう意味では時間も必要だし、違った意味で短期的なものも必要ですね。

ー 野崎さんは時間的な縦軸もあれば、幅広さという横軸もあるので、横と縦の掛け算が壮大だなって思います。

まあ、でも皆さんある意味ではそうなんじゃないですかね。経験的なものは時間として1つあるんですけど、広がりっていうのは人との関係とかどういうリレーションがあるかっていうところだと思うので。そういうことが重なっているっていうのがあるかもしれないですね。

ー そうですね。でも大体はセレクトショップのような横に広いけど浅いパターンか、ネクタイや靴だけを扱う職人さんのような一点集中型かというのが普通なんですが、野崎さんはどっちもが強烈だから、そこにあるビッグデータは本当に野崎さんにしかないユニークなものだと思うんですよね。

だから逆にいうと私のものを受け継ぐのが難しいですよね。私よりも周りの人にそう言われるんですよね。

ー それはもうみんな思っていますよね。nobunoza の面白いところは、野崎さんに「こういうものないですか?」って聞くと、膨大なビッグデータとリレーションの中から見つけてきてくれるっていうところです。

私は作る人なので何かしらのつてがあるんです。私にできなくてもあの人に聞けば何とかなるなっていうのがあるので。だからそういうことができるってことだと思うんですよね。

ー そこがユニークなところだと思います。

まあ、そう言われてみればそうかもしれないですけどね。私にとっては普通ですけどね。

nobunoza カラーのホテル

ー ミラノのホテルをリニューアルする時に客室を nobunoza カラーにしたというエピソードがありましたよね。

ずっと使い続けているというのが大きいですよね。ちょうどホテルの内装のペンキを全部塗り替えるっていうことがあったので。

ー 必ずそのホテルに泊まるんですか?

ミラノの近くに行く時はそうですね。35年くらいは使っています。一番古い客のひとりですね。

ー なかなか世界を見渡してもいないと思うんですが。

居心地が良いっていうことですね。

ー そういうのが多いですよね。リレーションというか付き合いが長いというか。

そうですね、付き合いが長くないとそういうのは生まれないですね。そういうのはリモートではできない話ですよね。

ー 現場に行かないと。

そう、そういう話にならないですよ。雑談していると「そういえばね」っていう話があるわけです。私はリモートだけじゃなくてリアルも必要だと思っている人間なので。向こうに行ってイタリア人と一緒にご飯食べている時に、「この前さ、こんなところ見たぜ」みたいな話が出てきて、「ちょっと待って、そこ行きたいよ!」ってなることがあります。そういう無駄と思われるところに次のヒントがあったりします。

Zoomでリモートで仕事する中にもこういうことが起こる可能性は十分あるけど、リアルで顔合わせてご飯食べながら話すのにもまた違った可能性があります。私は両方したいなと思っています。片方に寄らずに。

ー 割とその辺はフラットに。

そうですね。必要だと思ってるんで。コロナが明けて、「え? なんでこんなに人が動くの? なんでまたビジネス客が増えるの? リモートでもできるじゃん」って考える人もいるけど、そうじゃない何かがあるんです。さっきの時間を経ないと手に入らないものがあるっていう話と同じように、何かがあるんですね。それは数値にもできないし、言葉に表せないかもしれないけど、イレギュラーって元々言葉に表せないじゃないですか。

ー そうですね。

でもそういうことが何かに繋がったりすることがいっぱいあると思うので、そういう意味で私はイタリアに足を運ぶんです。それが一番の理由です。

無駄話は効率的

ー なるほど。定期的にイタリアに行かれていますけど、仕事の約束とか特定の目的ばかりじゃなくて、割とフリーな感じで。

そうです。一緒にご飯食べたり「最近どうしている?」って話すのも目的の1つです。そういうなかから何かが生まれる可能性が十分あるので。だから行くんですよね。ある意味すごく効率的ですよね。

ー そうですよね。設計できないから非効率的に見えるけど、実は効率的っていうね。

そうなんです。それをリモートでやるとしたらすごい時間がかかったり、それが生まれない可能性もあるわけですよね。

ー そういったクリエイティブジャンプというか、リニアにないところの発想や出会いってなかなか貴重だと思うんですけど、現代のテクノロジーとかAIの発展した社会では案外見過ごされがちだと思うんですが。

でもAIの企業とか、例えばGoogleみたいな企業でも、社会学、言語学、脳科学なんかを勉強した人間を入れているっていう話があるんですね。それはそういうことですよ。つまり人間を知らない限りモノが作れない。そういうことだと思うんです。Googleだったら自分の得意分野に特化していればいいんですかっていう話じゃなくて、もっと幅広いところから入れていないと次が見つからないってことですよね。

ー 確かに。

だから全然違う分野の優秀な人間を入れているって、結構そういう話を聞きます。

ー それを野崎さんはナチュラルにやっていますよね。

いやいや、そんな大袈裟なもんじゃないですけど、でもそういうことは必要だと思いますね。何年か前に新聞で読んだんですが、一般教養がとても大切だと。専門的な知識はもちろん必要だけど、それだけじゃなくていろいろなことを勉強する。欧米では例えばコンピュータ工学を勉強している人が、1、2年休学して社会学や心理学や哲学を勉強したりするということがよくあるんですよね。トップ企業の経営者が、コンピューターワークもやっているけど哲学も勉強しているというということがあるわけです。そういうことをしないと新しいものが生まれないって私は思っています。

ー 確かに1つのことだけじゃなく、いろいろなことを学ぶことは大事ですよね。

日本の大学のシステムはそうじゃない。いろんなものが学べるような横に動けるようなシステムじゃない。縦割りですから。欧米では休職して全然違うことを学んでまた戻ってくるっていうのがよくありますよね。そういうことが必要だと思っています。

服がウールに戻っている

ー なるほど、そこはすごく興味深いのでもう少しお聞きしたいです。今は変革の時だと思いますが、今の時代、これから生きていく時代について、野崎さんはどういう風に時代を捉えて、次の時代を見ているのか。野崎さんの見ている世界を聞かせてもらいたいんですが。

今お店に掛かっているコート。あれはウールなんです。今までは秋冬ものだと、ポリエステルの防水の生地の中にダウンが入っているようなものが多かったんです。ケミカル素材ですね。軽いし、雨に濡れても大丈夫だし、汚れもつきにくいし、暖かいし、とても便利です。それがウールに戻っているんです。今回イタリアに行った時に、7品目くらい冬物があったんですが、そのうちウールの商品が3点くらいありました。イタリアの有名な生地メーカーの防水のウールなんですが、ストームシステムって呼ばれていて、嵐でも使えるような生地です。

メーカーのホームページを見ると「50%リサイクル可能」って書いてあります。やっぱり今の動きは「環境に優しく再生可能」です。最近よく言われていますよね。このメーカーはいろんなトップブランドのものを作っているので感度が高いんですけど、言葉だけじゃなく実際に作っています。私がいつもイタリアでお話しする人は、2歳の子供がいる女性なんですが、彼女にとって再生可能でナチュラルな素材を使っているというのはすごく重要なポイントなんです。

ー 面白いですね。要するにソーシャルな課題を実際の商品に落とし込んでいるということですね。

ストームスシテムみたいな環境に優しい再生可能な生地を使った商品が、実際に出てきているんです。ブランドの営業やPRの人が商品を売るために綺麗事を言っているんじゃなくて、実際にモノを作っている人たちが、こういうモノを作り出しているんです。私はこれは大きな流れのなかの1つだなと思ったんですよ。

地球の環境の問題なので、この流れは消せないと思うんですね。例えば今20代の子が40歳になった時どうなっているかって考えた時に、この問題は避けて通れないですよ。でも今は結構言葉だけの人が多いように感じます。

ー SDGsとかね。

サスティナブルとか言いますよね。でも言葉だけで実際どうなのかって話になると結構あやふやになりますよね。

ー 確かに。

いろいろなことが言われていますよね。今は大きな地球の流れのなかのこういう時期だという人もいるし、陰謀説だっていう人もいるけど、でも実際に少しおかしくなっているなとは思いますよね。この問題は避けて通れなくなると思います。ここ10年20年は考えざるを得ない。それがこういう商品として表れてきているんです。

「何で今どきウール使うの?  爺さんが着てたやつじゃん」みたいな感じなんですけど、でもこれも時代の流れのなかのひとつだと私は思っています。

ー なるほどね。

この流れは消えないと思いますし、日本よりヨーロッパのほうがエコの意識が強くなっていると思います。相変わらず大量生産、大量消費という会社もある一方、感度の高い人たちはよりエコに向かっていると思います。

ロールスロイス、プリウス、テスラ

今テスラの車が売れていますよね。ハリウッドのアカデミー賞の授賞式なんかでも、昔は俳優は会場にロールスロイスで来ていました。少し前はプリウスで。今はテスラです。そういう感じの動きになっているんですね。非常に感度の高い人たちはそっちに向かって動いています。だからこの動きはそんなになくならないんじゃないかと思います。より強くなっていくんじゃないかなって感じがしますね。

ー なるほどね。時代の潮流のなかでのプロダクト作りになると。

ならざるを得ないと思いますね。

ー 40年近くお店をやって時代の移り変わりを見てきた野崎さんだからこそ見えることが沢山あるんだなと思いますね。

この前イタリアを見てきて実際そうだったんで。いつもだったらケミカルなものを使うことが多かったのに、なんで今どきウールなのって話なわけですよ。そういう風に変わっている大きな流れのなかの1つだと思うんですね。これがまたケミカルの方に戻るっていうのはなかなかないと思います。特に若い人たちは。もちろん全て変わるわけではなくて、良いとこ取りだとは思いますけどね。でもそれを考えざると得ない時代に入っていると思います。どのブランドでも必ず謳ってますよね、SDGsとか。実際やっているかはともかく。

ー 消費者もそのブランドがどういう立場でやっているのかをシビアに見ている人が多いですよね。

多いですね。これからもっと多くなると思います。だからこの流れを意識してやらざると得ないと思います。ただ世の中がどう変わっていくのかっていうのはなかなか難しいですよね。

カスタムメイドはその人のスタンダード

ー そうですね。その上で野崎さんが nobunoza を今後どうやって運営していくのか、ビジョンをどう描いているのか、お聞きしたいのですが。

私は上等なスタンダードを売りたいとずっと思っていますし、今までもそうしてきています。ここ何年かはカスタムメイドを多くしています。

ー そうですね。僕もネクタイだったりシャツだったりいろいろオーダーさせてもらっています。

なんでかと言うと、1つはお客様の好みに合ったものができるということです。サイズもそうだし。そうするとロスがない。捨てるものがないってことですよね。大量生産、大量消費の逆なんですよね。その人に合わせたものを作るというのは最終的にはカスタムメイドになると思うんです。これはそのまま続けようと思っていますし、この頃考えているのは、増やすことをやめようということです。あと付け加えることも。ひとつのものをやるにしても、色々くっつけることで価値を生むんじゃなくて、逆だと思っているんですよね。削ろうと思っているんです。

ー 引き算なんですね。

そう、引き算です。例えばアイテムが今まで5アイテムあったけど、よく考えたら結局使うのは2アイテムくらいじゃんっていうものを削ります。アイテムを減らすためにはよりクリエイトしなくてはいけなくなるんですよね。

ー そうですよね。

私はカスタムメイドはその人にとってのスタンダードだと思ってい ます。個人にとってのスタンダード。

ー おお、なるほど。

カスタムメイドってスタンダードじゃないと思っているかもしれないけど、その人にとってスタンダードですよ。

ー それは面白い視点ですね。

自分に合ったものが欲しいということは、その人にとっての究極のスタンダードなわけじゃないですか。

ー 確かに。

さっき言った上等なスタンダードとはまた違った視点のスタンダードですね。

ー その人の個人のスタンダードはアップデートされて。

そうです。一般的なスタンダードはマス的なスタンダードじゃないですか。でも私はカスタムメイドとは、その人にとってのスタンダードだと思っています。自分の好みなわけですから一番のスタンダードじゃないですか。そういうものだという感覚があるんです。一個作りもそうだし、既存のラインナップを作るにしてもそれを意識してやります。

ー よりパーソナルに合わせていくと。

そう、よりパーソナルに合わせますね。

ー 野崎さんが商品作りをされる時にお客さんの顔を思い浮かべたりしますか?

いや、それはないですね。私は作り手側。デザイナーでも販売側でもない。作る方から考えますね。もちろん何もないとお客さんのイメージが湧かないわけですよね。全ての人に合うものはできません。5アイテムを2アイテムに縮めると、そういう人しか来てくださらなくなると思うんですね。5アイテム欲しいという方はそういうお店に行くので。でも2アイテムでライフスタイルが作れるという人が来てくれるわけです。

そうするとどうなるかというと、2つのスタイルしかないから、より素材にいくと思っているんです。カラーについても。人によって求めるものが違うので。着心地って言ってもどういう着心地を求めるのかも違います。

素材屋さんに行くとコットン1つとってもいっぱい種類があります。100%コットンにも色々種類がある。尚且つ混ぜるというのもある。コットンリネンとかコットンシルクとか。このようにものすごくバリエーションがあるんです。だからさっき言った2つのアイテムでも、素材を掛け合わせることでバリエーションが出せるんです。私はそっちの方に行くような気がするんですよね。これをできればカスタムメイドに近いものにしたいと思っています。

ー それが個人のスタンダードになっていくと。

そういう風に仕向けたいですよね。

最後に

ー なるほどね。すごく興味深い視点で野崎さんらしいと思います。今日初めて野崎さんや nobunoza を知る人もいれば、30年以上前からの nobunoza ファンの方も見ているかもしれません。最後に何かメッセージをいただけますか?

私が常々思っているのは、アンテナを高くして、いろんなものに興味を持って、恐れずに一歩を踏み出ること、さっきのやるやらないの話じゃないですが、いろんなものを見たりやったり触ったりすることが大切だということです。

Zoomの中だけに閉じこまらず、リアルもすごく大切にして欲しいと思います。うちのお店のモノだったら直接見ていただきたいし、触っていただきたいです。私もホームページとかYouTubeをやっていますが、あの中で表現しきれないものがいっぱいあるんです。

お店に来ていただいて、実際に色を見ていただいて、手に持っていただくことで受けるものが全然違うわけです。それはその人のインスピレーションみたいなもので全く数値化できない話なんですよね。だからリアルを大切にしてもらいたいなと思いますね。

ー リアルを大切にね。

それって当たり前のことですよね。当たり前だけどこれからもっと必要な時代になるんじゃないですか。いま逆の方向に進んでいるから。なるべく見せないようにしてるし、追い込むような形だから。まさしくビッグデータの使い方ってそういうことですよね。

ー そういうことですよね。

追い込んでいくという形ですよね。でもそうじゃない違った視点を持つというのもとても大切だと思うので。

ー それにリアリティが隠れていると。

そうですね。動くこと、実際に足を運ぶこと。リアルってそういうことだと思うので。暇があったらお店に来てください。実際にモノを手に取って見てくださいってことですね。食べ物だって食べてみないと分からないじゃないですか(笑)。同じことですよね。

ー なかなか情報だけでは分からないものが沢山ありますね。

無理だと思いますね。服も着てみないと分からないし、バッグも持ってみないと分からないですよね。

ー 野崎さんの手作りカレーも美味しいですしね(笑)。

ははは(笑)。まあでも本当にリアルは大切だと思いますね。こういう時代だからこそ余計に。

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