Talent No.24

KEIZO_SUGIMOTO
Owner-Chef

  • #独学者
  • December 18th, 2025

profile

杉本敬三(すぎもと けいぞう)。19歳で渡仏し、アルザスなど地方を拠点に独学で腕を磨き、現地でシェフを務めた経験を持つ。帰国後の2012年、新橋に自身の店【ラ フィネス(La FinS)】を開店。店名は“余韻”を意味し、「料理を通じて記憶に刻まれる時間を届けたい」との想いを込める。食材や調理法にとどまらず、器やワイン、空間まで美意識を徹底し、日ごとに異なる一皿を生み出す独学者のフレンチシェフ。

深く考え抜き、刻まれる料理をつくる

杉本さんの料理は、ロジカルな印象があります。意識されていることはありますか。

食材が届いたら、この食材はどこからどういうふうにきたかを考えてメニューをつくるので、思いつきではないです。フランスのどういう歴史の中で使われてきた食材なのか、その後どういうふうに日本で作られてきたか、その食材をどの温度帯で調理するかなど、深く考えることで刻まれる料理になっていきます。日本の鰻屋やラーメン屋など一つの料理を極めているお店は、深く考えて作られていると思います。

僕はラ フィネスの空間そのものやワインも大好きなのですが、料理もまた素晴らしいですよね。パン屋さんより美味しい自家製のパンが出てきたり、びっくりするほど美味しいトリュフバターが出てきたり、サラダの概念が変わるサラダが出てきたり、いつも驚かされます。

パン屋さんはパンだけを作ってますが、単価が安いので数を作る必要があります。量を作るとなると人間ではどうしてもできない部分を機械に任せないといけなくなります。また、数を売る時は高級にしすぎると余った時の損失が大きいので、安い小麦粉を使っているお店が意外と多いです。うちの場合は、世の中にある一番高い小麦粉を使って、パン一つに対してすごくお金をかけています。原価も人件費も、採算が合わないところまでやりきると美味しくなるのだと思います。

ラフィネスは、オープンしてどれくらいになりますか。

オープンは13年前です。お店の開店にあたっては、親族で7,000万円集めて、僕が持っていた3,000万円と合わせて、1億円かけました。ワインも売って資金にしました。お店の売上設計は、一坪あたりいくら売れるかと考えることが多いですが、それよりもいかにお客さんにとって心地良い空間になるかを考えています。

銀行の融資を受けるとしたら、合理的な部分で判断されてしまいそうですね。

銀行だと融資は一切下りなかったです。飲食店で融資がおりるのは国民金融公庫(現在は日本政策金融公庫)くらいですが、結構条件が厳しいんです。リースの融資もダメだったので自分の力でやるしかないと思いました。

6分の1に熱量を注ぐ

確かにこれだけコンセプチュアルなお店を実現させるのに、銀行の理解を得られるのは難しそうですね。開店時からお店の構想はあったんですか?

高級店にしたいというイメージは、ずっとありました。僕は高いワインが好きなんです。フランスでは美味しい食事に大切なものが3つあると言います。一つ目は場所。二つ目は誰と食べるか。三つ目がワインと料理です。つまり料理は6分の1なんです。ただその6分の1にどこまで熱量を注ぐかが、レストランの面白いところだと思います。

6分の1である料理だけにフォーカスして他のところに目がいっていないレストランもありますよね。

僕は、お客様が盛り上がっている時はワインや料理の説明がかなり少ないです。なぜかと言ったらやっぱり僕たちの料理、ワインは合わせて3分の1に過ぎないからです。お客さんに楽しんでもらいたいので、料理を持っていった時、話が盛り上がっていれば、水を差すことはしません。僕は真面目に料理をしてますけど、そこにフォーカスしてもらえなくても、お客さんに楽しんでもらえたら良いのかなと思ってます。

お客さんを大切にされていますね。

9割以上の人は僕のスタイルが好きで来られる方が多いです。料理やワインの説明はしようと思えば膨大に説明できるんです。食材の選び方、調理方法一つひとつの理由に歴史と技術が詰まっています。何を聞かれても答えられます。

説明をする時は、フランスの歴史・文化のこの部分からインスピレーションを得てこんな料理に仕上がったという経緯、トレーサビリティを伝えるようにしています。どんな味かの説明は単なる感想にすぎないので。

日本のワインソムリエ協会は、素人さんにワインを教えるのが目的もあるので、それはそれで良いと思いますが、フランスでは「ワインの味を説明するソムリエは信用するな」と言われています。味の説明ってなんとなくそれなりのことを言えば、当てはまってしまうものです。本来なら、どんな生産者がどのように作ったかを説明するのが良いと思います。

ちなみにフランスのブルゴーニュ地方では、伝統的なオスピス・ド・ボーヌというワインオークションがあります。樽に入ったワインに、銘柄はブラインドで味や香りをみて、どれにいくら払うか競りをかけるものです。完全に出来上がってないワインの味を見て決めるのですが、これはこれで楽しいですね。

妥協しないために、選んだスタイル

先ほど人件費のお話が出たので詳しく聞かせてください。以前はスタッフもたくさんいたらしいですが、今はワンオペでやっていますよね。全て1人で手掛けていて、ここまでのクオリティとスピード、凄いですね。

フランスでは元々、組織でずっと働いていて、ホールも厨房もトータルで50人位の組織でトップだったんです。20代の頃はそういう組織の中で仕事するのは、有意義でしたが突き詰めていくと、どうしてもできない部分や妥協があるんです。自分が店を持った時は、もっと人を少なくしていきたいと考えました。いきなりワンオペではなくサービススタッフが2人、厨房も2,3人の規模で始めました。

うちの単価同等のフランス料理店は、8割のレストランがバックにスポンサーがいて、黒字を出さなくても経営ができる店がほとんどです。スポンサーがいるところは、税金対策もあって赤字を親会社が負担してくれるんです。うちみたいなオーナーシェフが借金をしてやるとなると、赤字も全部自分で負担しないといけない。そこのスタイルの違いが大きいです。

僕はこのお店を開いて最初の4年間は、給料85,000円でした。従業員は順番に減らしていき最終的に自分1人になりましたが5人でやっていた時に比べ今は売上が5倍あり、25人分働いています。

幼少期から料理の道を夢みて

本当に1人でやっているとは思えない仕事量ですよね。量をこなすスピードだけでなく圧倒的なクオリティの高さが杉本さんらしさのひとつかと。経営スタイルも新しく独特なところもあり、興味深いです。そんな杉本さんの幼少期を詳しく聞かせてもらいたいのですが8歳くらいから料理をされていたそうですね。どういったきっかけで料理を始めたんですか。

リンゴの皮むきは、覚えていないころからからずっとしてました。小学校3年生の時、父親にそんなに料理が好きなら料理人になれば、と言われました。いいね、と答えたら次の日にすぐ父親が砥石と包丁を買ってくれて「自分の包丁は自分で研ぎなさい。」と言われました。そういう環境や父親の影響は大きかったですね。

当時、小学校で「先生あのね」というテーマで交換日記を書く機会がありました。「先生あのね、今日はこういうことがあったよ。」と先生と交換日記をするもので、「将来の夢を見つけた。世界で一番のコックになる。」と書きました。ちょうどその時に先生が、良い作文をコンクールに出すことになり、それに選ばれて、日本一になったんです。それ以降、料理を辞めるに辞められなくなりました。

それは嬉しいですね。杉本さんは勉強も学校トップの成績、サッカー部のキャプテンとして国体にも出てるんですよね。スーパーマンじゃないですか!

小さい頃の夢を実現する人って意外と少ないじゃないですか。野球選手になりたいと言って国体に出て優勝した人でも、プロに出てちゃんと成功するのはまた別の話です。だから料理の世界も料理が好きっていうのと、実際にプロの世界に入ってそれなりに名前が売れて継続できるのは限られた人間になってきますね。

小学校3年生の時に書いた作文通りになっていますよね。

そうですね。でも、僕が思っていたのと違うところもありました。

ガイドブックの評価より大切にしたいもの

どんなところが違ったんですか。

世の中の人の多くは、ガイドブックの評価が世界の順位を決めていると思っていたんです。でも料理は、コンクール受けするものとそうでないものがあります。日本も世界もガイドブックは決して実力だけの世界ではなく大人の事情があります。

僕はガイドブックからもらう評価よりも、お客様がいくらまで使っても信用ができるかに、フォーカスし始めています。

以前は違ったのでしょうか。

以前はガイドブック、ミシュランが僕にとってフランス料理における通信簿だと思ってました。頑張ったら星1つもらえると勝手に勘違いしていました。

ある日、自分はずっと同じ仕事をしていたのに、突然、ミシュランに落ちたんですね。今後のために理由を聴いたところ、料理と食材とワインが一つ星のレベルに達してませんって言われたんです。何を基準にしてるのかがわからなくなったので自分で基準を作ろうと思うようになりました。

杉本さんの料理で基準に達していないというのは腑に落ちませんね。それは何年前のことですか?

今から7年くらい前ですね。フランスでも日本でも統計では、ミシュランの星がなくなったお店でその後3年以上続いてる店は1割ないんです。だから僕もこのままでは潰れる、どうしようと考えました。

ほとんどのお店はお客さんの数が少なくなるから、値段を下げようとしますが、僕は値段を下げてまで料理を作るんだったら、やりたいことをやって潰れた方が自分にとって気持ちが良いと思いました。

食材もワインも自分が買いたいものを買って、フルスイングでやっていこうと決め、ワインの価格方式も変えました。今まで3,000円のワインを10,000円で出していたとして、30,000円のワインを100,000円で売るとなると利益も10倍になる、というのは違うなと思い、グラス1杯を全部同じ金額にしました。それにより良いワインが飲みやすくなると思います。

いつも自分にとって正しいことを大切にしています。

水とロマネコンティを同じ価格にしている理由

うちはペアリングをやってるんですけど、ペアリングって基本的に自分の頭の中の概算になっちゃうんですけど、グラス一杯1000円から1500円いただいて、あとは原価にてしてるんですよ。だから300,000円のペアリングも12杯出して、12,000円前後いただくけど、それ以外は原価にしてるんです。

グラス代以外、原価だったのですか。すごいですね。

15,000円のワインのペアリングありますけど、3杯なので3,000円前後いただいてあとは原価なんです。

300,000円のペアリングも15,000円のワインのペアリングもお店としては12,000円をもらう仕組みなんですね。

グラス2個使うっていうのを、例えばミネラルウォーター1本400円ぐらいなんですよね。

グラスカップで来ることがほとんどで、2個使うじゃないですか。だから1,000円1,000円で400円なんで、2,400円もらいます。で、ロマネコンティをグラスで飲んでも1,000円もらいます。

水とロマネコンティが同じ値段なんですね。

だいたいそうです。グラスの価値とかものによって変わりますが、ちなみにお水で使っているグラスがどのワイングラスより高級です。

もう、グラス洗う代ですよね。他のお店も見習った方がいいんじゃないかという値付けですね。勉強になります。

ほとんどの店は、うちみたいにこの一番いいワインが回らないのって、そういう理由なんですよ。結局は100,000円で買ったワインをね、300,000円で売ってたら、いや200,000円の仕事をどこにしてんの?って。それだったら100,000円のお酒を買って持ち込んだら110,000円で終わるじゃんっていう、になっちゃう。もうそうなっちゃうんですよ。

それでうちは良心的ですよって言っても100,000円のお酒を200,000円で売ってたら、それでも実は横でさ、3,000円のワインを9,000円で売っててって言って、あっちは原価率3割ですけど、こっちは原価率50パーセントですよって言っても、あっちはさ、6,000円しかもらってないし、こっちは100,000円もらってるわけです。

今のはむちゃくちゃ大げさに言いましたけど、でもある程度の金額を超え出したら、自分の仕入れからプラス20,000円とか30,000円ぐらいからは、もう、それ以上上げるとみんな持ち込むっていうのはわかってるのねっていう。

料理も今そうですよね。原価50パー、70パー、80パーですって自信満々に言うけど、いやいやって話。150,000円とってるよねっていうことですよね。

そうそう。それが僕のベースであって、だから、うちは従業員いないし。

ワンオペだから成り立つやり方ってことですよね。

ワンオペだからなんです。一人でやってるし。だからもうサービススタッフ欲しいとかって言うんだったら、全然いいですよ。

雇うとして、プロ雇ったら日50,000円なんで、じゃあ、その分お客さんからプラス料金もらうか、ワインの質を落として、その分を彼の給料に与えるかというか、派遣で雇うかっていう、そういうところなんですよっていう。だから、それが好きだったらそういう店に行けばいいし、そういうのは銀座にいっぱいあるんで。

ただうちは、自分のやり方で。自分がオーナーシェフとして高級路線で生き抜くってめちゃめちゃ大変なんですよ。だってバックのオーナーいても潰れている店、けっこういっぱいあるので。うちにはバックオーナーいないんで。

多くのレストランはオーナーがいるんですよね。

もっとかもしれない。客単50,000円超える店は、もう基本的にバックにスポンサーいないと成り立たないんですよ、こういうお店って。

原価率を安くしないと成り立ちませんよね。

僕はもともと貧乏人なんで。やっぱり金額に見合った最低限の原価って絶対あると思うんですよ。それは自分も食べていてわかるし。そういうのがちゃんとしてるのは、寿司屋であったりとか、和食屋さんだったりとか、原価をちゃんと食材を勉強すればするほど、これむっちゃ高いやつ使ってる、何気なく使ってるとかっていうのが見えてくる。そうなると、フレンチって本当に商売が三つ星って何なのこれ?っていう。

経営視点からお菓子に目覚める

なるほど。興味深いプライシングと経営戦略、というか商売の向き合い方ですよね。“自分にとって正しいこと”というのは料理人に限らず多くの人にとってヒントになりそうです。そんな杉本さんのここまでの道のり...8歳の時に包丁と砥石をもらってから料理人としての歩みを詳しく教えてもらいたいです。

当時、地元では和食屋さんが多く、よく見学させてもらいました。家では、一生懸命練習して魚も捌けるようにしました。

中学校の頃は、数学が好きでした。親とお菓子屋さんに行き、外で待っていた時、 お菓子屋さんに出入りするお客さんの数を30分間ずっと数えていたんです。 ホールケーキを買う人、シュークリームだけを買う人、全部の平均値を出すと、客単価1500円から2000円位でした。お客さんが20人出入りしたので30分で40,000円位の売上であることがわかりました。営業時間5時間でこの出入りがずっと続けば 1日で400,000円の売上、レストランと変わらず、お菓子はすごいと思い、お菓子の世界に目覚めました。

美味しさのために、とことん探求

杉本さんは料理だけでなく、お菓子もいつも素晴らしいですよね。

今、お店で作っているすべてのお菓子のレシピは、中学生の頃に作ったものがベースにあります。 毎日のように小麦粉や卵を変えてシュークリームを作っていました。同じレシピでも材料、練る力、温度、時間を変えていくとシュークリームって色々な形ができるんです。カリカリとかふわふわとかサクサクとか全部データ化してレシピは100個位あります。中学校の時、沢山作ったのでレシピが絶対に頭に入ってるんですよ。今ではほとんどレシピを見ないで作ります。

シュークリームだけのレシピで100ってすごいですね!しかも中学生のときに開発して、全て頭に入って今でも実現させているのは信じられません。

沢山作って失敗も一杯してるので、こんな食感にはどんな割合が良いか、全部データとして入れています。お菓子のベースになるクッキー、スポンジケーキ、タルトは全部小麦粉、バター、砂糖を卵で作るんです。 材料が一緒なのに混ぜ方が少しでも配合が違うだけで味が変わるのが楽しいです。

杉本さんの知性、ロジカルさはもちろんのこと、感性や味覚もすごいですよね。その辺りの秘密も深掘りしていきたいです。昔からお酒の味比べをしていたそうですね。

うちの父は、「酔っ払うために飲むんだったら、そもそも意図が違う。興味を持つためにお酒を飲むのは良いことだから、飲んだらレポートを書きなさい。」と言いました。お酒を飲む時は、使われているお米、醸造方法を調べた上でどんな味がしたか自分のコメントを書きました。お酒を知るために飲んでいましたね。

もはや研究ですよね。好奇心であったり、探究心に純粋で真っ直ぐなところは杉本さんのコアにありそうですが、杉本さんは、料理を作る時は色々試行錯誤しながら決めていくことが多いですか。それとも正解はこれだ!って感じで一直線で狙っていくスタイルでしょうか。

料理を作ることに関しては、試行錯誤です。こういう料理が作りたいとレシピを考えて食材を選んで、進めるのが9割の料理です。組織で仕事をする人は、それをしないと絶対に無理なんです。うちの店は組織でない分、自分で色々小回りが利くのが良いところです。例えばスズキ丼のメニューを決めた時、良いスズキがとれなくてもメニューに書いてあるから冷凍する等の妥協をして作るお店が多いです。

うちのやり方は漁師さんに、僕が納得できるような鮮度の魚があるかを聞いて、その時あった食材をベースにつくります。

材料は、 2割り増しで仕入れる

正解を決めてかかるのではなく、柔軟に対応していくスタイルですね。その瞬間瞬間の強さも感じます。一方で緻密に戦略をもって動かれていますよね。生産者さんとの付き合い方も興味深いので詳しく聞かせてもらいたいです。杉本さんは漁師さんや農家さんとの信頼関係も大切にしていますよね。

はい。魚も野菜も2割増しで買う、というポリシーがあります。「安くしろ。」じゃなくて「高くしろ。その代わりに一番良いものじゃなきゃ嫌だ。」とはっきり言ってます。お互い命懸けで仕事をしているからです。

なるべく安く仕入れたいっていうのが一般的かと思いますけど、あえて2割増しで仕入れるのは興味深いです。生産者さんの反応はいかがですか。

やる気のある人は、きっと嬉しいですよね。本来なら、やっぱり生産者は良いものを分けたいんですよ。自分では良いものをわかっているから。それに、粗利が2割増えればやる気も出ますよね。中途半端なものだったら僕はいらないから、本当に自信のあるものだけを全部を2割増しで買うようにしています。

やりたくてもなかなか出来ることではありません。従業員さん達がいなくなってから出来るようになったスタイルなんでしょうか。

いなくなってからですね。

命懸けの覚悟で、お店づくりに向き合う

良い食材を仕入れても従業員さんがいない分、労力は増えますよね。

増えますがそこは技術の問題だと思います。僕は小学生の頃から料理をやっているので。ホールと料理を分業する方が良いんじゃないっていう意見もありそうですけど、今の日本の法律で労働者の権利を考えると、誰かを雇うことに対する経営者の負担が大きすぎると思います。最近は、従業員でも料理人として働きに来ているから掃除はしたくない、という意見が通ってしまう時代です。僕にとって1人でやることは、どこまで出来るのかテスト的な感覚で面白いですね。

一方で、自分が倒れたら終わりというリスクはあります。自分の店は1億円かけて、命懸けでやってるので、自分が倒れたらそもそも従業員がいたとしても閉めるつもりです。旅行や出張に行って、誰かに任せてお店をやるのは、僕は信じられないです。システマチックなのは僕は絶対やらないです。

すごい覚悟ですね。料理に自信というか狂気すら感じるのはこういった覚悟から来るのかもしれません。ここまでの深い話は今回初めて聞かせてもらいましたが納得感はあります。

僕以外の人間が作って美味しいものなら、僕が作らなくても別にいいんじゃないかって思います。パンを作る技術で難しいのはやっぱり小さいバゲットですね。パン生地を入れたら、細長く出てくるポロンっていう機械があり、それを使うと早いんですけど、自分みたいに全部手ごねでやるってなると手間と工程がかかり、美味しく仕上げるのは相当大変です。握り寿司と一緒で、きれいな形に仕上げながら美味しいものに仕上げるって難しいです。でも、僕はそこにロマンを感じるんです。

お店づくりに、妥協なし

杉本さんはロマンチストですよね。諦めずに自分のロマンをとことん追求する。それがお店作りや料理にもよく現れているし、僕が惹かれる理由のひとつかと思います。 他のレストランや飲食店に比べて、ラフィネスのここが特別だという取り組みは他にどんなところでしょうか。

フランスでは当たり前でも、日本の飲食店は厨房システムを知らないことが多いです。こちらの台は、上部が5mmのステンレスになっていて14年間程、使っていても凹みもないです。あとは冷蔵庫の下にゴミが入らず清潔を保てる環境を作ってます。

これも杉本さんが設計して作ったのでしょうか。

この厨房は本当に冷蔵庫の配置から棚から全部僕がミリ単位で設計してます。このテーブルの大きさも全部測ってます。

環境作りも凄いですね。料理だけでなくお店の設計も試行錯誤して進めるのですか。

ハードの部分は、一番初めに決めないといけなかったので、自分が一番大好きなお店から厨房の大きさを考えました。僕はバックヤードをすごく大切にしている人間なので、従業員や業者の導線も考えました。あとは、グラス、紙袋、お箸など消耗品に年間2,000万円くらい使います。

お店づくりも妥協がないですね。

僕はずっと同じものを使うよりも、ちょっとずつ色々買いたいんです。お皿やグラスも新しいものを買っては使ってみています。

そこまでお店作りにこだわりつつ、会計処理や帳簿までもご自身でやられていますよね。一人何役もこなしていて信じられない人も多いと思います。

ミスがない会計帳簿を作れるって超気持ちいいんですよ。学校で点取るときって気持ちいいじゃないですか。それと同じなんですよ。会計士さんがすいません、私やることがないんですけどっていうぐらい。

子どもやワンちゃんも受け入れるのは、フランス流

杉本さんのワイン会にも何度か参加させてもらっています。ワイン会を開催しようと思ったきっかけはどういうものでしたか?

ワイン会は趣味です。原価計算しないでやってますけど、赤字です。ついお店に来て頂いているお客さんを中心にワインを出しすぎちゃいます。商売としてワインのセレクションをしても良いかなと思いながら、趣味でやってます。

いつも楽しく、しかも学びの多いワイン会で気に入っています。ワイン会を開催しているレストランというと敷居の高い印象をもつ方もいらっしゃるかとは思いますが、お子さんやペットも一緒に訪れやすいレストランとして認定されているそうですね。

フランスでは、子どもやワンちゃんを連れて入れる三ッ星レストランが普通にあるんです。ラ フィネスは、個室では動物も受け入れています。ペットの排泄物があった時は、自分で掃除をして頂くかこちらで掃除をする時はお金を頂きます。フランスでは、犬は家族同然で、しつけをしていない野良犬と一緒にするな、という感覚があります。子どもも個室でお願いしていますが、小学校高学年ぐらいでちゃんと座っていることが出来れば、個室じゃなくてもダイニングで受け入れています。娘には、小さい頃からしつけをしていて、娘が3歳の時にフランスのレストランに連れて行きました。

興味深いですね。お子さんの教育で特に気をつけていることはありますか。

レストランは、大人のテーマパークだと教えました。緊張はしなきゃいけないけど、楽しむところと伝えました。お店で実際に一回あったのが、店内で夫婦喧嘩をしていたお客さんです。僕は初めての予約を受ける時は、条件をきつめに言うので予約をしてくれた旦那さんにはお店のルールを伝えたつもりでしたが、奥さんはそれを知らず夫婦喧嘩が始まりました。それに対して子どもが泣いてしまったんです。泣き止まないのでお子様を連れて外に出てもらい、泣き止んでから戻ってもらうようにしましたが、思いっきり食べログのレビューで色々書かれていました。

でもうちの店は、そもそもしつけが出来ない人が来る店じゃないです。ファーストクラスに乗る時、周りの雰囲気に合わせるのと一緒です。空間と料理とお酒が一体となっているのが前提です。社交場の中に子どもがいて、大人の雰囲気を壊すようなのはダメだと思います。マナーというのは基本的には他人に迷惑をかけないのが一番だと考えています。

お酒を愛する人のためのお店を目指して。

興味深いエピソードですね。料理やお酒と同じくらい空間を大切にしているラフィネスらしさですね。ラフィネスには、特にこんな人に来てもらいたいという想定はあるんですか?

最終的には、お酒ありきの店にしたいです。お酒を飲まない人はそもそも来ないでほしいくらいです。お酒って僕にとってみれば料理と一緒で生き物なんです。お寿司屋で日本中から届く最高級の魚介類をいっぱい集めて準備している大将に対して、魚介類が苦手です、と言うのと同じことだと思います。これだけ良いものを厳選して揃えて、リーズナブルに出しているのに、それを頼まないなら他の店行けば良いと思います。安くても美味しいワインが一杯あるし、量を飲めなくても良いものをちょっとだけ飲みたいという気持ちは、大切にしてほしいです。

生産者とお客さんに、寄り添い続ける

もし、杉本さんがお菓子屋さんをやるとしたらどんな設計にしますか?あえて経営視点でお聞きしたいです。

僕だったら、、、一番いい考えは10050台しか売れないんだったら、もう自分が欲しい給料をまず提示して、そこから原価から合わせていった値段を出しちゃう。

だから例えば子供が国立大学に行きたい、じゃあ自分が今どれぐらいの家賃とかに住んでるっていう人生設計で、10年で、20年で、30年でだいたい何千万必要っていうことを計算してみたいな。で、そこから割り算していって、自分の欲しい金額から決めていきますね。

材料費いくらかかるとか、経費計算や予算などを決める前に、欲しい金額から設定するのが大事なんですね。

そう、金額をはじめ、ある程度子供にこれぐらい必要かなとかっていうのとかを決めますね。たださすがに今はもうね、全部が公立高校で国立大学行ってくれるんだったらいいけど、そんな世の中簡単じゃないから、だから例えば200台で2億円欲しいなと思ったら、1100万円にすればいい。

100万円で売れるケーキを作ればいいだけ。わかりやすい発想ですね。ただなかなか採用できない戦略でもあります。

1台の単価を上げるっていうのって意外とそのなんだろう、その梱包であったりとか、そういうケーキだけではないところもあるんです。自分の技術とか、そういうところ以外のところにお金をかけたら、2割3割上げてもお客さんあんまり文句がなかったりします。

消費財に年間2,000万円使っている話につながってきますね。

見せ方とか、そのなり方とか、例えば、昔だったらオープンした時の頃はお金もなかったので、いろんなところのお金使いすぎてたんで、お客さんに渡す紙袋とかそういうのって、もらった袋とかをそのままエコみたいに再利用したりとかしていたんですよ。

デパートの袋とかも綺麗に畳んで置いておいて、お客さんが持って帰るようにその中に入れて出してたんですね。それはそれでOKなんですけど。お客さんはそれではやっぱりフィネスのブランディングにならないんですよ。

箸も作っていて持ち帰れるようなシステムにしていますよね。我が家でもラフィネスでもらった箸を使っていて、やっぱりラフィネスでの体験を食事のたびに思い出したりします。

そうそう、お箸もであったりとか、缶とかにシールを乗っけたり、そのシールを作ったりとかで、実はうちって紙袋だけで7種類ぐらいあるんですよ。

7種類もあるんですね。そんなに使い分けてるんですか。

チョコレートをもうちょっと高価にすると、いっぱい巾着に入れていて、物っていうのはいきなり出てくるよりも、出てくる前にこういうものに包んであるとより高く見えるという、宝石屋さんが言ってたので、採用させていただきました。

で、大きさによってワインとかっていうのも、これは袋に見えて、実は封筒になっていて、ちょっとしたものを送るときにこれシールついてて、そのままこうして送って、ちょっとしたパフェとかをお客様に送る時とかでも、ちゃんとこれが届いたらオシャレじゃないですか。

すごい考え込まれてますね。

で、これあの一番スタンダードのデカいやつなんですけど、これは「マツコの知らない世界」の紙袋の回で日本で一番高級な袋として紹介されて、マツコは「どこのカバンなの?」みたいな。どうせルブタンみたいな靴が入ってるんでしょ?みたいなところから、実はこれレストランのみたいな、話なんです。

見せ方が上手いですね。他に意識していることやルールはありますか。

僕の店で統一していることは、実はレストランの袋ってわからないんですよ。それはなぜかというと、どこかに持っていくときに、これただでもらったやつだっていうよりも、何あれオシャレだけどどこの?っていう、、、その中身も中に自分の住所を入れています。

住所入ってるんですね。

はい、ちゃんと入れてます。この内側に入れてます。

お客さんから広がる設計、コミュニケーションツールとして、しっかり機能させていますね。

そういうところにちょっとお金を、他のところでもちょっとでも高いものをすると、別にそれのプラスアルファお金を出したとしても、高くなったとしても、お客さんとしてはそれが高いけど安いねっていう。だから何万円払ってるけど、お菓子として何万円じゃなくて、その袋代込み、何々込み、トータルで言ったら絶対ここ安いよねっていうようにお客さんは感じるんです。

お客さんへの寄り添いも感じます。

実際にバレンタインでデパートで売ってるやつって、チョコレートの中は普通なのに、箱だけめっちゃ綺麗だけども、1万ぐらいでボンボン売れてるじゃないですか。結局そういうことなんですよ。それが中身が本物だったらもっと売れるんだけどっていう話ですよね。

最後に、これから杉本さんが目指している世界観、理想を聴かせてもらいたいです。

今、日本で一番良いワインがグラスで飲めて、食材もフランス料理店だったらどこよりも良い食材を入れ、良いものを調理しているという自覚があります。なので、今やっていることをもっと深掘りしていきたいなと思っています。例えばフランスに行ったら、今お店で出しているワインの作り手と話して、彼らがどういう気持ちでワインを作っているか聴きたいです。食材に関してもウニの漁師さんにもう少し頼み込んで、この食材はなぜ高価なのか自分で身を持って理解したいです。そしてそれらを多くのお客さんに伝えていけたらと思っています。

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KEIZO_SUGIMOTO

杉本敬三(すぎもと けいぞう)。19歳で渡仏し、アルザスなど地方を拠点に独学で腕を磨き、現地でシェフを務めた経験を持つ。帰国後の2012年、新橋に自身の店【ラ フィネス(La FinS)】を開店。店名は“余韻”を意味し、「料理を通じて記憶に刻まれる時間を届けたい」との想いを込める。食材や調理法にとどまらず、器やワイン、空間まで美意識を徹底し、日ごとに異なる一皿を生み出す独学者のフレンチシェフ。

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